溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
黙ってうつむく花梨の耳元で、新條はフッと笑う。
「花梨、そんなにオレが信じられない?」
「なんで?」
「だって今日は帰ってからずっと今日で終わりみたいな顔してるし」
「そんなことな……」
「あるよ。お地蔵さんみたいな笑顔だし」
確かに最後かもしれないからケンカしないようにしようと、なるべく笑っているようにしていた。わざとらしさが滲み出ていたかもしれないけど、たとえがひどい。
花梨は振り返って反論する。
「なんでお地蔵さんなのよ。そこはマリア様かせめて観音様でしょ」
「観音様は男だよ」
「え、そうなの?」
「たいがいの絵がヒゲ生えてるし」
「そうだったっけ?」
いつの間にか話をすげ替えられて、首を傾げている花梨を新條はいきなり抱き上げた。
「ちょっ……! おろして!」
「続きはベッドでゆっくり話そう」
「だから一緒には寝ないって言ってるでしょ!」
「はいはい」
適当な返事をしながら新條は寝室に入っていく。ムッとした花梨は入り口に手をかけてそれを阻止した。
「無駄な抵抗はやめなさい」
立てこもり犯を説得するようなことを言いながら、新條は脇を支えた手をもぞもぞ動かして花梨をくすぐる。
「ひゃあっ!」
悲鳴を上げて思わず手を離した隙をついて、花梨はまんまと寝室に連れ込まれた。おのれ腹黒策士。
花梨をベッドに横たえてその横に新條も寝そべる。押さえるように肩に手をかけられて起きあがれない花梨は、顔だけ新條の方に向けてにらんだ。
「一緒には寝ないって言ってるのに!」
「何もしないよ。花梨が欲しいって言うなら別だけど」
「絶対、言わない!」
「なら問題ないだろ? でもそんな思い切り否定されると軽くへこむなぁ」
まったくへこんだようには見えない嬉しそうな表情で、新條は花梨を抱き寄せた。たぶん新條には花梨が、すでに消えている境界線を必死で守ろうとしていることを見破られているのだろう。
それも悔しいので、先ほどごまかされた話題に戻す。
「ねぇ、どうしてお地蔵様なのよ」
「え? それそんなに気になる?」
「続きはベッドでって言ったのはあんたでしょ」
「まぁ、そうだけど。話を打ち切って花梨を連れ込む口実に決まってんじゃん」
「そんなことはわかってるけど、気になるのよ」
まさかでまかせ? 新條のことだからそれはないと思うが。