溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~



 ロビーで待ち合わせて、ホテル内の喫茶に移動すると聞いている。ホテルに入る客の陰に隠れるようにして潜入した花梨は、柱の陰からロビーを見渡した。
 見た目が目立つ新條はすぐに見つかった。窓際のソファーに腰掛けて、隣に座った初老の男性と話をしている。彼が仲人になる新條の叔父さんだろう。

 上質そうなスーツを着て、鋭い目つきが威厳に満ちている。上品で整った面立ちは、目つきの鋭さが際だっていてふんわりと甘い印象の新條とはあまり似ていない。新條は母親似なのかもしれないと思った。

 花梨はロビーの中程に間仕切り代わりに置かれた観葉植物の陰に移動して、ふたりとの距離を少し詰める。案外ざわつくロビーでまだ距離があるので話の内容は聞こえないが、先ほどより表情がはっきりと見えるようになった。

 なにやら叔父さんの方はちょっと不機嫌のようで、元々険しい顔をさらに険しくして新條になにか言っている。それに対して新條は涼しい顔で二言三言返事をしている。
 見合いは断るとか結婚しないとか言っているのだろうか。

 ふいに新條がエントランスに視線を向けて、言葉を制するように叔父さんに声をかけた。それに弾かれたようにエントランスの方に顔を向けた叔父さんは、今までとは打って変わって満面の営業スマイルを浮かべながら席を立つ。新條も気怠げに席を立った。

 女性を伴ってやってきた男性と叔父さんは、笑顔のまま親しげに言葉を交わす。男性は叔父さんより少し若く見える。一緒にいる若い女性が見合いの相手ということだろう。

 女性はこちらに背中を向けているので顔は見えないが、ずいぶんと小柄で華奢に見えた。今時見合いに振り袖姿というのも珍しい。溺愛されてる箱入りお嬢様と言っていたのが伺える。

 叔父さんたちは互いに同伴者を紹介する。女性がペコリと頭を下げ、新條も淡い笑みを浮かべて会釈した。

 それを見て途端に花梨の胸はチクリと痛む。新條が自分以外の女性に笑顔を向けたのを見たのは初めてだったからだ。

 一行がそろって喫茶室に移動してロビーからいなくなっても、花梨は胸の痛みに囚われていた。


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