溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
大丈夫大丈夫。あれは営業スマイル。叔父さんの手前、いつもの氷対応ができないだけだ。
ゆうべ新條は約束してくれた。絶対に最後にしないと。
必死で言い聞かせても不安はぬぐえない。
ふと、なんでこんなところにいるんだろうと情けなくなってきた。居ても立ってもいられなくて勢いでやってきたけど、そばで見ていたからといって結局なるようにしかならない。花梨は完全に蚊帳の外だ。
従来の予定通り家で待っていようと思い、ため息と共に席を立つ。すると声をかけられた。
花梨が声のした方へ顔を向けると、バーテンダーの水谷さんがにこにこしながらこちらに近づいてきた。
「水谷さん。これからお仕事ですか?」
「いえ、仕事は三時からなんですが、今日は娘にここのランチをせがまれて早めに来たんですよ」
その割りに水谷さんはひとりだ。娘さんとは待ち合わせをしているのだろう。同じように水谷さんも花梨がひとりでいることに気付いたらしい。
「今日も貴陽くんと?」
どうやら恋人だとか思われているらしい。スイートルームに一緒に泊まったわけだから、そう思われるのも当たり前だけど。
一応恋人契約はしているけれど、それも今日の結果によってはどうなるかわからない。先ほど目にした見合い相手に向けられる新條の笑顔が脳裏をよぎる。
花梨は苦笑しながら首を振った。
「いえ、今日はひとりです。彼はここでお見合いなんですけどね」
「え?」
水谷さんは意外そうな、申し訳なさそうな表情を浮かべる。花梨はなんでもないことのように笑いながら言う。
「ちょっと気になって見に来たんですけど、どっか行っちゃったしそろそろ帰ろうかと」
水谷さんは益々申し訳なさそうに頭をかいた。
「いや、どうも。うっかり変なこと聞いてしまって。てっきりおふたりはおつき合いなさってるものだと思い込んでいました。貴陽くんはあなたのことを大切な人だと言ってましたから」
「え?」