溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~



 元々政略結婚だった縁談だ。破談となったことで経営に影響があるのではないかと花梨は危惧した。

 だが、新條家には見合いと結婚を強引に進めてしまったという負い目があり、日向家には昔から決められていた縁談を見合い当日に断ったという負い目がある。

 新條家と日向家との今後の商取引において、この件を理由にお互い相手の不利益となる条件は提示しないことになったらしい。

 これは田辺さんに付き添っていた男性が教えてくれた。彼は田辺さんの父親だという。

 そして、ここにきて花梨はハタと気づいた。

「あんずちゃん、会社に提出してある名前って偽名なの?」

 田辺さんは苦笑しながら父親も交えて説明する。

「あんずは本名ですよ。ただ、漢字だと”きょうこ”って読まれちゃうんで、公式文書以外はひらがな表記にしてます。田辺は母方の名字なんです」
「娘の就職先に貴陽さんがいることを知って、私が会社の方に頼んだんですよ」

 田辺さんの父親の話によると、就職先自体は田辺さんが決めて、入社試験も自力で突破したらしい。だが、入社が決まったあと、婚約予定の新條が社員であることが発覚した。

 新條の三男は経営に関わっていないので、父親とは面識がなく、どんな人物なのかわからない。そこで、娘を通してざっくりとでも情報を仕入れようと思った。

 たまたま娘の就職先の人事に知り合いが居たので、新條に警戒させないように名字だけ変更してもらったらしい。

 配属部署まで指定はしなかったが、人事の配慮なのか同じ部署に配属となった。そういう経緯があったから、部長にあわただしく新人配属の連絡があったのだろう。


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