溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
父親は申し訳なさそうに頭をかきながら、新條に頭を下げる。
「このたびは私のメールのせいで貴陽さんにはご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「メールって……。あぁ。あの写真ですか」
なんと。あの写真は父親が送ったものだったのか。
娘には写真に写っている好きな人がいる。そして、貴陽さんはゲイだとの噂がある。縁談を進めてもふたりとも幸せにはなれないと思う。縁談はなかったことにできないか。
そういう内容を書いて写真を貼付したメールを送ったらしい。
あの写真を見た叔父さんの心情はなんとなく想像できる。
田辺さんの好きな人云々はすっかり頭から吹っ飛んで、ゲイ疑惑だけが胸中を渦巻いたのだろう。
それにしても、他に写真はなかったのか。それが気になって花梨が尋ねると、田辺さんの父親は苦笑しながら答えた。
「いやぁ、娘からもらったのはあの写真だけだったし、写っているふたりの内、ひとりは貴陽さんだからわかってもらえると思ったんですけどね」
横で田辺さんもニコニコしながら言う。
「あの写真、友達が隠し撮りしたのを貰ったんですけど、北斗さんの笑顔がよく撮れててすごく気に入ってるんです」
たしかに野口くんの笑顔は絶品だった。
ひとりだけ事情をわかっていないらしい野口くんが、不思議そうに田辺さんに尋ねた。
「どんな写真?」
「これです。よく撮れてるでしょう?」
田辺さんが差し出したスマホの画面を見て、野口くんが顔をひきつらせながら絶句する。
「え……」
固まったままの野口くんを引き連れて、田辺さんたちは立ち去った。