溺愛スイートライフ~御曹司に甘く迫られてます~
部屋の真ん中にある小さな机を囲んで四人が席に着くと、新條が口を開いた。
「先に言っておくけど、ヘンナメディカル人事給与システムを完全に理解している者はひとりもいない」
そう前置きをしてシステムの説明を始める。
ヘンナメディカルは辺奈商事のグループ企業で全国十五カ所に支店を持つ製薬会社だ。人事給与システムは元々他の会社が開発して保守を行っていた。ところが開発会社が倒産したため、ヘンナメディカルの依頼で資料とソフトウェア資源と共に保守業務を我が社が引き継いだのだ。
開発から十年以上現場で使用されてきたシステムは、バグや仕様変更でマイナーチェンジを幾度となく繰り返している。なのに受け取った資料にはそれが反映されていない。何が変更されたのか聞こうにも開発元は倒産しているのでそれもできない。おまけに潜在バグが散見される。社内では”ポンコツシステム”と呼ばれるようになった。
客先からの問い合わせ対応にも、まず調べることから始まるので時間がかかりすぎる。たまに気の短いお客様にはお叱りを受けることもあるので、二年前に新條がチームリーダーを引き継いだとき、資料を整えようということになった。
今では問い合わせやトラブル対応、仕様変更対応など本来の保守業務より、資料作成の方が花梨たちの主な仕事になっている。
田辺さんには画面の操作方法を覚えながら、これまで花梨がしていた操作マニュアルの作成をしてもらうことになった。