薫衣草荘の住人
その後、運ばれてきた料理を食べた。
大好きな、このお店のカルボナーラ。
それなのに今日は、全く味がしなかった。
「夏野さん、大丈夫?」
「あ、はい…」
「なんか、元気無くないね。具合悪くなった
の?タクシー拾おうか?」
「い、いえ…大丈夫です。」
「無理しないで…ね?」
「はい…」
「肩、貸そうか?」
「いえ…」
どうしてだろう。
さっきまでキラキラしていた気持ちが
暗く、澱みの様に沈んでいる。
何も言葉が出てこなかった。
そうこうしていたら、いつの間にか家の前
だった。
「着いたよ。」
「は、い。」
「じゃあ、ゆっくり休んで。」
「はい…」
その時。
頭を撫でられる。
「元気出して。」
その時。
私の中で何かが弾けた様な気がした。
「…どうして、こんな事…」
「え?」
「どうして、こんなに優しくするんです
か?」
「夏野さん?」
「衣草さん、ヒドイです。衣草さん、私の事
を子供だと思ってるかも知れませんけど、
私はもう19歳です。一人暮らしだってして
ます。」
「夏野さん…?」
「もうっ…どうしてっ!」
私は衣草さんの胸ぐらをつかみ…
キスをした。
「!」
「衣草さんのバカッ!」
私は部屋に走って入った。