薫衣草荘の住人
目が開かない。
私、どうしたんだっけ…?
ああ、そうだ。
私、階段から落ちて…
じゃあここは?
私、死ぬのかなぁ…
やだなぁ。それだけは。
だってまだ、衣草さんに気持ちをちゃんと
伝えてないし。
死にたくない、な…
(夏…野さんっ!)
遠くの方で声が微かに聞こえた気がする。
目の前は真っ暗。
(夏野さんっ!)
衣草さんだっ…!
私、また衣草さんに会いたいよ。
このまま死ぬなんて…
その時。
視界が、ぱっと明るくなった。
瞬間。涙が溢れる。
そこには衣草さんが居たから。
「夏野さん!大丈夫!?」
「衣、草さん…っ!」
「ごめんね…僕のせいで…」
「いえ…!そんな…私こそ!」
私は次の言葉を言おうとしたけれど、言葉
を飲み込む。
その雰囲気を感じ取ったのか、衣草さんは
立ち上がる。
「…先生、呼んでくるね。」
「あっ…!待って!」
私は衣草さんを呼び止める。
「…」
「この間は…いきなり、その…キス、してごめ
んなさい。」
「うん…あれは、びっくりした。」
「すみません…でも!私…私、衣草さんが好き
なんです。」
「…うん。」
「私じゃ、ダメですか?」
「…ダメ、って言うか…怖いんだよ…」
「怖い…?」
「人を愛する事が。」
「え…?」
「僕はね、この世で1番愛していた妹を殺し
たんだよ。」
「えっ…」
私はこれから、衝撃的な話を聞く事になる。