薫衣草荘の住人











私は、目的地に向かって走っていた。








目的地はこの間一緒にご飯を食べたカフェ








だった。








目的地に着く少し手前の道で私は何かに躓








いた。








(前に倒れるっ!!)








そう思った時だった。








後ろから抱き止められた。








「夏野さんって、ドジなのかな?」








聞き覚えのある、優しい声。








「…衣草さん。」








なぜだか涙が出てきた。








「え、な、何で泣くの…!?」








「何か…ホッとしちゃって…衣草さんとちゃん








と話せてるから…」








「夏野さん…」








「ずっと、避けててごめんなさい…」








「大丈夫。誰でもあんな重い話を聞いたら、








避けたくなるのも当たり前だよ。」








「そんな…」








「ごめんね。夏野さんの気持ちに応えられな








くて…」








私は大きく息をすった。








そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。








「…愛し方は、人それぞれです。」








「え…?」








「決まりはありません。みんなそれぞれの方








法で人を愛し、愛されようとします。間違








いはありません。多分、衣草さんが紅さん








に抱いていた感情も愛です。愛し方を忘れ








てしまったなら、また思い出せばいいんで








す。」








「夏野さん…」








「私と一緒に1から、愛し方を見つけません








か?」








私は手を差し出す。








すると衣草さんの瞳から大粒の涙がこぼれ








落ちる。








「え…」








すると衣草さんは私の差し出した手を握り








しめ、私を抱き寄せる。








「衣草、さん…!」








「ありがとう、ありがとう…っ!」








「衣草さん…」








衣草さんの私を抱きしめる力が強くなる。








私も抱きしめ返す。








「時間がかかってもいいんです。ゆっくり、








ゆっくり。衣草さんのペースで見つけまし








ょ。」








「ありがとう。」
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