薫衣草荘の住人
アタシの家は、三人家族だった。
パパ、ママ、アタシの三人。
ママは病弱だったけれど、とても優しくっ
て、近所でも噂の美人さんだった。
パパも、仕事は忙しかったけれど、休みの
日は家族を遊びに連れて行ってくれる優し
い人だった。
そんなある日だった。
「こんにちは。」
お父さんは、仕事の同僚だと言って、男の
人とその子供を連れてきた。
その子が
「日向 葵だよ。よろしくね。」
「アタシ、森永 千代子。」
お互いに同じ年だったから、すぐに打ち解
けられた。
「千代子…チョコみたいだね!美味しそう!」
「わぁ!うん!アタシ、チョコ!」
チョコ、というニックネームは葵が付けて
くれた。
葵の家は父子家庭で、
葵のパパが仕事で遅い時にはよく、アタシ
の家に来た。
アタシは、葵が好きになった。
7歳の初恋だった。
そんなある日だった。
いつものように葵が来て、葵のパパが夜に
迎えに来た。
「バイバイ、チョコ。」
「うん!バイバイ、葵。」
私は葵に向かって手をふる。
「さ、千代子も寝なさい。明日も学校だ
よ。」
「はーい!」
「…あれ?千代子、ママの薬知らない?」
「えー?知らないよー。」
「そう…まぁ、もうちょっと探してみましょ
っと。」
「おやすみ!ママ。」
「おやすみ、千代子。」
そう言ってアタシは、眠りについた。