薫衣草荘の住人
「ここがスーパーね。多分ポストにもチラシ
入ってると思うよ。安くて、新鮮でいいス
ーパーだよ。」
「そうなんですね。」
私と衣草さんは春風の中、
道を歩いていた。
風が吹くたびに
衣草さんの香りがする。
「…ってカンジだけど、他に見たいところあ
る?」
「あ、いえ…だいたいわかりました。」
「そう。じゃあ…戻ろっか。」
「はい。」
そう言って、薫衣草荘に向かう。
「そういえば、衣草さんは何のお仕事をして
いるんですか?」
「んーとね。絵本描いてるんだよ。児童書
ね。」
「そうなんですね!読んでみたいなー。」
「うん。じゃあ、今度ね。」
「あ、はい。」
「ほら、着いたよ。じゃあ、俺はこれから仕
事だから。」
そう言って、衣草さんは部屋に入ろうとす
る。
「あ!ま、待ってください!」
私は慌てて衣草さんを引き止める。
「ん?どーした?」
衣草さんは、不思議そうに首を傾げる。
「えと…衣草はん、今日はほんまにおおき
に。これからもよろしうお願いします!」
衣草さんは驚いたように目を見開いた。
それから困ったような顔する。
そして、ゆっくり
言葉を選ぶように口を開く。
「…えと…なんかいいね。京都弁。」
「あ、はい…」
なんか…
恥ずかしいっ!
「…なんか、恥ずかしいね。でも、可愛い。」
「かわ、かわい、い…!?」
「うん。じゃ、行くね。」
「は、い…」
あ、わかった。
この香りは、
ラベンダーの香りだ。
この時。
私は衣草さんへの恋心を自覚した。