時渡りと桜
桜花
私は、通学路の途中で立ち止まった。
私の家から、そう遠くない場所に流れる川。
名前は……なんだっただろう。
川幅は5メートルくらい。
小さな川だが春になると、川に沿って植えられた桜の木が、満開の花を咲かせる。
入学式の今日、ちょうど満開の桜が咲いていた。
私は今日から大学生になる。
大学にこだわりはなかったので、家から通える公立大学を受験した。
無事に合格し、そして今日は、その大学の入学式だった。
高校に通っていた頃から、特に変わらない通学路を、これから4年間、再び歩くことになった。
大学生になったら少し見える景色が変わるのかな、なんて思っていたが、それも特に変化はなさそうだ。
全然いつもと変わらないけれど、ここの桜はやっぱり綺麗だと思った。
小さな頃から何度も見ている景色なのに、これから先、何年経ってもこの景色はきっと色あせない。
川にかかる橋の中央、欄干に頬杖をつく。
目を閉じ、水面を吹き抜ける風が頬を撫でていくのを感じる。
一ヶ月前くらいに、同じようにここで目を閉じていたことを思い出した。
高校の卒業式の帰り道。
今、満開に咲いている桜の花は、まだ蕾だった。
その裸の木が、余計に寂寥感を際立たせた。
高校に思い入れはあまりなかった。
でも、卒業してしまうと、少し寂しさも感じるんだな。
自嘲的な笑いが出た。
この寂しさの理由はなんだろう。
思い残したことなんて、何もないはずなのに。
――その時、アイツが話しかけてきたのだ。