時渡りと桜
憧憬
あれは、二年の文化祭でのことだった。
クラスの出し物は、カフェかなんかで、結構ハードなシフトを組まされていた。
やっと休憩に入り、一組・二組合同の控え室に戻ると、誰もいなかった。
――友達はまだシフト入ってたしな。
私は一人で昼食を取ろうと思い、教室を出た。
屋台で適当に食べ物を買って、食べながら中庭でやっているイベントを眺めていると、花壇に座る私の隣に、誰かが座った。
「俺も休憩ー」
「……桐生か」
桐生の方を見ずに言うと、相変わらず素っ気ねーなー、とぶつぶつ呟いている。
そのあと、しばらく沈黙が続いたが、私が不意に口を開いた。
「……みんな気楽そうだよねー」
「は?」
「来年には必死だろうけど」
「あー、受験ねー」
ステージの上で企画をして盛り上がる同級生を見て思った。
私のひとり言のような言葉に、桐生は返してくれる。
「桐生はどこ行くか決まってんの?」
「ん?……もちろん!」
桐生にこんな質問をしてしまったこの時の私は、少なからず、自分の進路に不安を抱いていたのだろう。
「T大の法学部。検事になりたいんだよ」
「…………」
……桐生には、目標があるんだ。
桐生は私の第一印象に反して、いつも真面目に授業に臨んでおり、成績優秀だった。
それも"検事になる"という目標があるからなのかもしれない。
「お前は?」
「……まだ」
私は、身の縮む思いがした。
私には目標がない。