時渡りと桜
恋慕
ついに、桐生が引っ越す日がきてしまった。
何時頃に出るかは聞いていない。
今は午前八時。
すでに出かける準備はできている。
コートのポケットにスマホを入れて、自分の部屋を出る。
さて、ここからが問題だ。
玄関で靴を履き、立ち上がって、一度大きく深呼吸する。
――よし。
ドアノブを握る。
何も考えないように、少し力を込めて回せば、後は押すだけ……!
…………。
やっぱり……。
はぁ、と思わずため息が出る。
いつまでも勇気が出ない私自身に、呆れていると、ふと、ある考えを思いついた。
スマホをポケットから取り出し、桐生へのメッセージを打ち込む。
『今から行く』
送信し、改めて文面を見た後、スマホをポケットしまう。
――よし、もう行くしかない。
自分に言い聞かせて、ドアノブをもう一度握る。
開かずの扉がようやく開いた。