時渡りと桜
私が彼氏をつくらない理由は、簡単だ。
好きな人がいないからだ。
そんなの関係なく付き合う人もいるだろう。
好きな人いないし、告白されたから付き合おう、みたいな。
でも私は、どうしてもそうは思えないのだ。
時々、告白されるけど、いつも受ける気にはならない。
だからといって、お互いに好きになってから付き合いたいという、こだわりがあるわけでもない。
私に恋人はいらない。
少なくとも、今の私はこれでいい。
帰り道、一緒に歩く二人を見て思った。
二人から目が離せないのは、あの桐生に、本当に彼女がいたことによる驚きからだ。
通学路の途中にある、あの橋で、二人並んで川の方を向いていた。
桜はまだ咲いていないから、少し寂しい景色だ。
欄干に手をついて、話しながら笑い合っている。
その光景を目にしてから、私はしばらく、その場に立ちすくんでいた。
でも、いつまでもここにいて二人に気づかれたらきまずい。
私には二人の後ろを通る勇気はなく、少し遠回りをして帰ることにした。
よほど私にとって衝撃的だったのか、あれからしばらく、このことが頭に焼き付いて離れなかった。
今でも時々、思い出す。
そして――なぜか、思い出すたびに苦しくなるのだ。