時渡りと桜
卒業式の帰り道。
通学路の途中にある、小川にかかる橋。
その中央で、欄干に頬杖をつき、目の前に広がる景色を眺めていた。
川に沿って植えられた桜の木は、まだ花が咲いておらず、雲に覆われた空と相まって余計に寂しく感じる。
寂しい風景を遮るように、私は目を閉じ、高校生活を思い返していた。
「お前、何してんの?」
聞きおぼえのある声に、目を開ける。
「何でもいいでしょ」
ぶっきらぼうに答えた私の隣に、桐生も並んできた。
「まさか……高校の思い出がよみがえってきて、感極まったとか」
「……思い返してはいたけど、泣いてはいないから」
寂しいとも思ってない、と付け加えると桐生はケラケラ笑う。
「たしかに、お前が泣くところとか想像できねぇ」
……どこまでも失礼なやつだ。
私だって人の子なのだから、泣くことぐらいある。
私は欄干から離れ、再び帰路についた。
桐生も後を追ってくる。
久しぶりに二人で歩く通学路。
私となんかじゃなくて、彼女と帰らなくていいのだろうか。
そもそも、彼女とはまだ付き合っているのか?
そういえば、大学に行ったら疎遠になり、自然消滅するから、という理由で卒業式前に別れた友達がいた。
もしかしたら、そんな理由で二人も別れたのかもしれない。
――まあ、私には関係ない話だけど。