時渡りと桜
「このあと、友達とどっか行ったりしねーの?」
「しない。大学の入学式まで時間あるし、いくらでも遊べるでしょ。………桐生は?」
「俺も」
「ふーん」
意外だった。
桐生のことだから、スーツ姿でぞろぞろ遊びに行く集団に入っていると思った。
「みんな離れ離れになるっていっても、夏休みとかになれば、こっちに帰ってくるだろ。今、惜しんで遊ぶ必要ねぇと思うけどな」
「大学で友達できて、こっちとは疎遠になって……それで終わりだよ」
「冷めてるなー」
桐生はまた、ケラケラ笑う。
たしかに、私は冷めているのだろう。
高校の三年間、ずっと一緒にいた友人を、大学に行けばその関係も終わるような存在だと思っている。
薄情な人間、と言われて当然だ。
でも、人と人とのつながりなんて、そんなものなのだ。
「まあ、お前の言う通りなのかも知れねぇけど」
そう言って、桐生は頭を掻いた。
気がつくと、私と桐生がいつも別れる交差点に来ていた。
一旦、立ち止まり、桐生の方を振り返る。
「じゃあ」
「ああ、またな」
また、って……そんなのもう、こないのに。
桐生の別れの言葉に、そう思いながら、私は歩き出した。
家に帰るまで、後ろを振り返ることはなかった。