時渡りと桜
そこまで思い返し、私は回想をやめた。
まだ入学式が始まるまでには時間があるが、いつまでもここにいる訳にもいかない。
閉じていた目を、ゆっくりと開く――。
そこに広がった光景に、気が動転した。
先ほどまで満開だった桜の花が
蕾になっていたのだ。
ひらひらと舞っていた花びらは跡形もない。
水面にも、一枚も落ちていない。
欄干に手をつき、橋の下を覗きこむ。
やはり、あの薄桃色の花びらは落ちていなかった。
「お前、なにしてんの?」
聞き覚えのある声に、慌てて振り返る。
――どうして……?
なんで、アイツがここに……。
状況が飲み込めない。
その瞬間、一ヶ月前の記憶がフラッシュバックした。
いや、まさか、そんな――。
「お前、泣いてる……?」
言われて、我に返り、目元を拭った。
そこで、頬を伝っていた涙に初めて気づいた。
一体、いつから……。