時渡りと桜
桐生は目を見開いて、驚いていた。
でも、そのあとすぐ笑顔になった。
言えて良かった。
胸のつっかかりが一つ、消えたような気がする。
しかし、一つ言えて満足していてはいけない。
「あと、もう一つある」
「ん?」
桐生はきょとんとしている。
――あぁ、さすがにこれを言うには勇気がいる。
一度深呼吸して、口を開いた。
「私、桐生が好き」
「……」
さっきよりも目を見張っている。
友達にはバレバレな態度だったらしいから、桐生にもバレているかも、と思っていた。
どうやらこの様子では気づいていなかったようだ。
――なんて現実逃避している間にも、顔に熱が急速に集まってきている。
……穴があったら入りたい気分だ。
「気づいたのは最近だけど、ずっと前から――委員会で桐生と初めて話したときから、たぶん、ずっと好き」
桐生と双葉さんが付き合っているという話を聞いて、もやもやしていた。
二人が仲良く話す姿を見て、しばらく動けなくなるほどショックだったし、その光景を思い出すたびに胸が痛くなった。
明らかに恋をしている症状だと、分かってはいたけれど、認めたくなくて、自分をごまかし続けていた。
素直になって、想いを伝えることができれば、こんなにすっきりとした気持ちになれるとも知らずに。
「返事はいらないから。伝えたかっただけ」
「……ああ」
恥ずかしいけど、それよりも、言えて良かったという喜びの方が強い。
桐生に伝えることができただけで良かった。
だから桐生の気持ちは聞かない。
聞いたら、塞ぎこんでしまうかもしれないし。