時渡りと桜
「じゃあ――」
「久留米」
私が別れを告げようとすると、呼び止められた。
「お前はきっと、大学に行ったらお互いのことなんて忘れる、とか思ってそうだから言うけど――」
その言葉に、卒業式の後の、桐生との会話を思い出した。
私がタイムリープする前の会話だが。
「絶対に近いうちに帰ってくるから。お前に会いに」
「――っ」
桐生の真摯な目に圧倒されて、しばらく言葉が出てこなかった。
「………よく、そんな恥ずかしいこと言えるね」
「お互い様だろ」
真っ赤になった私の顔を見て、笑いながら言った。
「――じゃあな」
「うん。……また、ね」
「ああ、『また』な」
そう言って、家族のもとへ戻っていった。
『また』なんて来ないと思っていたけれど、今は桐生の言葉を信じてみてもいい、と思える。
私は桐生が乗った車が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。