時渡りと桜
あの日から時々、桐生とやり取りをするようになった。
くだらない言い争いをしていたかと思えば、私の進路の相談をしたり、或いは兄弟の愚痴を吐いたり……。
親よりも気兼ねなく話している気がする。
きっとあの時、桐生に伝えずにいたら、高校生活での後悔と大学生活への不安で、鬱々とした気分でこの道を歩いていたのだろう。
「――ありがとう」
桐生がいてくれて、良かった。
本人に言ったら大げさだと言われそうだが、私が今、前を向けているのは桐生のおかげだ。
冗談とかじゃない、本当に。
すごく感謝してる。
そんな思いを「ありがとう」という言葉にのせた。
絶対に面と向かっては言わないけれど、伝わればいいな、と思いながら。
「――よし」
そろそろ大学に向かうか。
私は欄干から手を離した。
その時、少し強く風が吹いて、舞った桜の花びらが、ひらひらと目の前に落ちてきた。
思わずキャッチしてしまう。
手のひらにのる桃色の花びらを見て、なぜか嬉しくなった。
通学路を歩く、足取りは軽い。
end