時渡りと桜
「お前でも、卒業式に泣いたりするんだな!」
お前が泣いてるとこなんて初めて見た、とアイツはケラケラ笑う。
「っ違う!そんなんじゃない……!」
この涙は、そんなことが原因じゃない。
感覚的に、そう思った。
――いや、今は涙の原因なんて、どうでもいい。
まだ、蕾をつけている桜。
この橋の欄干に頬杖をつき、目を閉じていた私。
その時、話しかけてきた、アイツ。
一ヶ月前の記憶にある景色と、今ここにある景色が、一致していた。
それに、アイツはさっき何て言った……?
私の中に、ある考えが浮かぶ。
――でも、そんなことあるわけない。
そんなの、ありえないし。
自分の考えが馬鹿馬鹿しく思えて、笑ってしまう。
「泣いたり、笑ったり、忙しいな」
怪訝な表情でこちらを見るアイツを、私は見据える。
「あんた、なんでここにいんの」
「は?……俺の家がこっちの方にあるからだよ」
「他県の大学行くとか言ってたじゃん。まだ、ここにいていいの?」
私の質問にアイツは、ぽかんとした表情を見せた。
しかし、そのあとすぐに、笑いだした。
「何言ってんの、お前。卒業式当日に、引っ越しするわけねぇだろ」
「…………」
卒業式、当日――。
まるで、今日が卒業式当日とでもいうような口振りだ。
……もしかしなくても、私の予想は、当たっていた?
私は、
一ヶ月前に、タイムリープしてしまった。