時渡りと桜
「なあなあ」
「……?」
喋る相手もおらず退屈で、なんとなく携帯をいじっていた私は、突然、隣から聞こえた声の方を向いた。
「風紀委員ってなにすんのかな?」
「……知らないで入ったの」
「うん」
話しかけてきた男、名前は分からない。
そいつは能天気そうな顔で、もしかしてお前知ってんの?と聞いてくる。
お前って……こいつ何様だよ。
「久留米 」
「は?」
「久留米 夕(くるめ ゆう)。私の名前」
「へー、珍しい名字」
別に名字の感想なんて求めていない。
こいつは私が名乗った理由が分からないようだ。
「あんたは?」
「ん?桐生竜也」
「ふーん、桐生ね」
「お前、同じ委員会のやつの名前くらい覚えとけよ」
まあ、俺も人のこと言えないけどな、と桐生はケラケラ笑う。
名前を教えてもまだ、"お前"を使うか。
私は、こいつはこういう人間なんだなと理解した。
「それで?風紀委員って何すんの?」
「……放課後、教室に人が残ってないかとか、戸締りをチェックする当番があるらしい」
「それだけ?」
「あいさつ当番がたまに」
私がそう言うと、俺めっちゃラッキーじゃん、とガッツポーズした。
やっぱり能天気だな、とそれを見て思う。
「お前、それを知ってて風紀委員に?」
「もちろん」
「うわー、策士だな!」
別に策ってほどでもないけど。
「委員会を理由に部活サボれるしな」
「そうそう」
まだ部活に入ってもないのにサボるつもりとか、どうなんだ。
桐生に対する、私の第一印象は"不真面目"になった。
私も人のこと言えないけど。