澄みわたれ!
あぁ。これまでのことはなんだったのか。
時はオーディションの日の朝に巻き戻る
そうからメールが来ていた
『オーディション。力を出し切れ!まりなら出来るよ。大丈夫!俺はまりの味方だ!』
何気ない言葉に、じんわりと胸が熱くなる
頑張れとは言わない
その気遣いにやる気を出した
ー学校ー
あと15分で部活が始まる。
それくらいの時刻に学校に来た
そしていつも通り楽器を出し、いつも通り基礎練に入る。
いつもと違うのは気持ちだけ
あとはいつも通りやってのける。
大丈夫。
そうも、言ってくれたでしょ
部活の教室に行くとあんが先にいた
「、、、あんー。緊張する、、、」
そりゃあね
と、あんが呟いた
「アンコンのときもだけど先生に見られるって緊張するわー」
「同意ー」
こちらの調子はいつも通りでてきぱきと譜面台を組み立てる
「じゃ、頑張りますわ」
「聴いとくわーw」
「それはやめてww」
頭部管練習から始める
今日は調子が良い
ピッコロの甲高い音が耳を刺した
あの音、最初は鬼門なんだけど慣れるとなにも感じないんだよねー
音程を念入りに合わせて、基礎練が終わったくらいに先輩が入ってきた
『おはようございます』
『おはよー』
ガタガタと音がして、先輩も定位置に着く
「ちょっと大事な話」
そう言ってしずか先輩は切り出した
「えーと。正式に引越しと転校が決まりました」
えっ、とどよめきが渦巻く
「先輩どういうことですか」
あいかがよく分からないという風に首を傾げる
「親の離婚といざこざでさ、
母親の方につくことにして、そしたら大阪に引っ越すんだって
だから、4月からはもういないんだ」
まだ、理解が追いついていないようだった
あんとあいかだけ
「先輩、じゃあもう完全に、、、」
私はためらいがちに小さく言った
「そういうこと。定演は掛け合ってみるけど、そこまでなんだ」
「せ、んぱ」
あいかが目を潤ませてしずか先輩に抱きついた
「よかったなーしずか。泣いてくれる後輩がいてくれて。」
さくら先輩が茶化すように言う
さくら先輩の瞳もまた揺れていた
さくら先輩としずか先輩は小さい頃からの仲だから、思うこともあるのだろうか
「ほんと、そこは嬉しい」
歯を見せてニカッと笑う
力なさげなその顔に少し躊躇う
だけどその顔の裏にふと強い眼が見えた気がした
その眼は
どちらかというと、新たな生活の方に気がいっていて、今のことに興味がないようだった