さようならマミー!
第1章-9
さようならマミィー!
ナンシーは、そのボールペンで彼女の電話番号と住所を書き記した。書き終わ
りそのボールペンを私に手渡す時に彼女の涙が見えた。私は、それを気づかな
い振りをして、彼女を背にし、車に乗り込む。エンジンをかけ、駐車場から道
に出る時に彼女が手を振っているのに対して、私も小さく車の中ら手を振る。
木造レストランの謎が解けた。何故彼女の息子ジョンが亡くなったのかそれを
聞く事は、しなかった。ナンシーは、私がジョンであるとは、思っていない。
ママは、そうマミィは、そうでない様だ。彼女の悲しみから出た錯覚、彼女に
奇妙な行動を取らせている。私が、ジョンでないと、あなたの息子でないと否
定するには、残酷過ぎる事かもしれない。ナンシーでさせ、私のボールペンで
弟を思い出している。姉と母親に愛されていたジョン、それはもう過去の人だ
が、彼女達にとって消えない記憶としてジョンは生きている。そのジョンが何
故か私になった。その傷口を癒す事が出来るならば、ジョンとして接して良い
だろう。今それしか方法が考えられない。本当の事を暴いてもそれが、何にも
ならない。それならこのままで良いだろう。私にとっては、あの木造レストラ
ンでの時間は、不思議な流れと雰囲気をもたらしている。決して不愉快でない。
彼女、ママの愛が偽りでなく真実だから、不快へ導いていない。車を運転しな
がら、彼女達にジョンとして接する事に抵抗を感じなくなるように、努める事
にしようと自分自身に対して誓う気持ちで満ちあふれている。モーテルに戻り、
何時もと同じよ様にシャワーをするが、何時もと違う感覚に襲われていた。マ
マは、息子と接す時には、ワルツを歌っていたのだった。ブルースではない。
ワルツだった。ワルツの曲は、聞こえていないが、音楽が醸し出している時間、
空間がそこにあったと理解出来た。息子の為なら自分の命を差し出す程の愛が
包み込んでいた時間、空間があそこに存在したのを漸く理解出来た。今までの
自分の人生に経験した事のない世界に誘われたいたと、理解とゆう範疇を超え
ている世界だった。

J1-9
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