缶コーヒーの人
缶コーヒーの人
「最悪だー」

私は見事に意気消沈していた。


理不尽な事で上司に怒られ、
他人のミスをなすりつけられ、
花の金曜日なのに、残業を余儀なくされ、
玲奈との食事を泣く泣くキャンセルする羽目になった。

運悪くスマホの充電も切れてしまって、風見さんからのLINEも返信できてない。


本当についていない。


23時を回った頃、私はやっと退勤のタイムカードを押した。
オフィスに残っているのは私だけだった。

サービス残業は意地でもしてやらない。
それは私なりの会社への反抗だ。


明日は、デートなのに……


今から帰ったら寝る頃には1時を過ぎてしまう。

明日に備えて、日付が変わる前には眠りにつきたかったのに……


落ち込みながら、会社を出る。

駅までの道のりを歩いていたら、溝にヒールが引っかかって躓いた。
その上、駅に着いた途端に、乗るべき電車が発車していった。


ついていない時って、とことんついていない。


ホームで次の電車を待ちながら、自販機で暖かいミルクティを買って飲む。

普段ブラックコーヒーしか飲まない私が、今、この瞬間に求めていたのは、
糖分の塊みたいな飲み物だったのだ。

「うー、甘い……」

一口飲んで顔をしかめた。
ミルクティの甘ったるさがエネルギーとなって五臓六腑に哀しく染み渡った。
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