スイーツ王子と恋するレシピ
スイーツ王子と迷える子羊
「どれくらい根性あるのか見せてもらうぜ、ブタコ」

不敵な笑みを浮かべる毒舌王子の恵斗。

ブタコじゃなくてココです!

なんて言えない……。私は小心者。くすん。
おじいちゃんのケーキ屋さん「COCO」からもらった大事な名前なのに。

「オラ洗いものたまってるぞ!」
「ベーキングパウダーの棚に小麦粉置いたのお前か! グズ!」
「ノロマ!」
「ブタ!」

悪魔の怒涛が毎日私に飛んでくる。
それでもお客さんは「スイーツ王子の作ったスイーツは最高」
「ホント。ルックスも甘いもんね」と満足気に帰っていく。

本当の彼は毒舌で悪魔で水虫ででべそなんですよ~!!
て、水虫とでべそは嘘だけど。

本日の営業も無事、終了。スイーツは完売。
「今日もお疲れさま。遅くまで大変だったね、ココちゃん」

オーナーは優しい!

「明日も早いけど、大丈夫? 土日は稼ぎ時だから忙しいけど、ごめんね」
「もちろん大丈夫です! 頑張ります!」

オーナーのためなら……。うふふ。

「どうせデートの予定も無さそうだしな!」

う、また毒舌王子が余計なことを! あんたには言ってないっての!

「しっかり働けよ! ブタコ! あと、ちょっとは痩せろよ」

ケケケケと笑いながら厨房を出る毒舌王子。

「いつもゴメンね、ココちゃん」
「いえ……もうだいぶ慣れましたから!」

嘘、ホントは毎回傷ついてるんですけどね。まあでも、ちょっと痩せないといけないのは当たってるから。
毎日立っぱなしで重労働だけど、ちょくちょくオーナーがこっそりスイーツを分けてくれるから。
えへ。

「でも、オーナーもたいへんですよね。毒舌王子…じゃなくて、恵斗さんって、昔からあんなに口が悪かったんですか」

「……それは」

「?」

オーナーの顔が一瞬、曇った。
「いや、何でもないよ。また明日もよろしくね、ココちゃん」


私が一人暮らしのアパートに帰ったのは午前0時前。明日の予約注文がたくさん入っていたので、仕込みや後片付けに時間がかかってしまった。

疲れて玄関に倒れこむと、トートバッグから小さな箱がころんと転がり落ちた。
 今日もこっそりとスイーツを分けてもらっていたのだ。

私は倒れたまま、箱を開けると、クリームがななめに傾いたモンブランが顔を出した。
甘い栗の香り。私はたまらなくなって、かぷっと一口。

お、おいしーい。甘ーい。染みる~。

私はとたんに元気になって、起き上がり、洗濯をはじめ、お風呂に入った。

毒舌であんな性格なのに、あんなにケーキは美味しくて……
そしてあんなに甘いマスク……

私の頭の中には恵斗さんの顔が。

「惜しい! 性格さえ良ければ、完璧なスイーツ王子なのに!」
でも、そういえば……。今日のオーナーの表情が気になる。
恵斗さんは生まれたときから悪魔…というわけではなかったの?

じゃあいつから?

そして……

 何故?
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