スイーツ王子と恋するレシピ
「ぼ、ボンジュール! ソーリー! ヘルプミー!」

 フランス語なんて一言もしゃべれないわたしは慌てて、自分でも何を言っているのかわからないけど、とにかくおじさんの手を振りほどいて深々とお辞儀をした。

「ごめんなさい! 間違えました! 本当にごめんなさい!」

 どうせ言葉が通じないのであれば、日本語で押し通すしかない!
 気持ちだけは伝わるだろう。(たぶん)

 おじさんはびっくりしていたけど、怒った様子もなく笑って手を振ってくれた。
 ああ、優しい人でよかった。

 って、ホッとしている場合じゃないっ!

 恵斗さんはどこ?

 わたし、完全に迷子。
 
 パスポートとお財布と荷物はあるけれど、両替の仕方もわかんないよ。
 ホテルだって、全部恵斗さん任せだったから…。

「け、けいとさぁーん」

 わたしは人込みに向かって叫んでみた。

 返事はない。

 どうしよう。

 わたしは長いフライトでの疲れと極度の緊張で、めまいに襲われた。

「けいと、さ…」

 もう、立ってはいられない。

 …目の前は暗闇…わたしはその場に倒れ気を失った。


  そして


 …何時間経っただろう…

 わたしはしばらく意識を失っていたようだ。
 そうだ、わたしは今、パリにいる。恵斗さん、恵斗さんはどこ?

 わたしは意識は戻ったものの、目を閉じていてまだ暗闇の中にいた。

 あれ? ここ、どこだろう

 さっき冷たい床の上に倒れたと思っていたのに、今はふかふかのおひさまの匂いのするベッドにいる。
 気持ちいい…
 それに、甘い香り。これは、ショコラの香り? ココナッツの香りも鼻をくすぐる。

 あ、そうか、夢だったんだ!

 わたしは今、シャルロットにいるんだ! 
 なぁーんだ!

 わたしは安心して目を開けた。


 !!

 
 しかし、そこはシャルロットではなかった。

 え? ここ、どこ?

 
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