スイーツ王子と恋するレシピ
「押しのけたりして、ごめんなさい。でも、日本のことよく知っているのなら、わかるでしょ? キスなんて誰とでも簡単にはできないってこと」

 わたしはレオの前にきちんと座り直し、そう言った。
 レオは髪の乱れを直しながら、ため息をつき、

「もちろんわかってるっちゅーねん。日本人の女の子は、大抵喜んでくれるんやけどな」

「よ、喜んで、って!!」

「パリ旅行。どこかで甘いロマンスがあるって期待してたんとちゃうか」

「わ、わたしは恋人と来ました!」

 はっ!!
 わたしは早く恵斗さんを探さなければならないということに気付いた。
 レオとやりあっている暇はないっ!
 はやく何とかお礼を言ってここから出なければ!

「そういうのが一番ヤバいんや」

「はっ!?」

「はじめての恋人との海外旅行で愛想つきて別れてまうカップルは多いんや」

「わたしはそんなことはありませんっ!」

「へー。じゃあ、なんで恋人をはぐれてしもうたんや」

「……」

 そうだった。飛行機で、些細なことでケンカしちゃって、それで…。

「でも、もし、そうであっても、レオは一体何が目的なの」

「もちろん、一晩限りの熱いアバンチュールを楽しんでもらおう思てるだけや。ほんま日本の女の子はひっかかりやすいからな」

 げげっ!! やっぱこの男、最低!!

「とにかく、助けてくれたことやマカロンをごちそうになったことに対してはお礼を言います! ありがとう! サンキュー! メルシー! 謝謝!」

 きょとんとするレオ。でもすぐに大きな声で笑いだした。

「はっはっは! あんたおもろいな!」

「では、わたしはこれで失礼します!」

 わたしは部屋の隅に置いてある自分の荷物を掴もうとした。

「ちょい、待ちーや」

「まだ何か!?」

「お代」

「え?」

「マカロンのお代、払ってもらいまひょ。あれはうちのパティスリーの人気商品なんや」

 パティスリーだったんだ。
 どうりで1階の方から甘い香りがすると思った。

「わかりました! おいくらですか!」

「全部で10ユーロ。紅茶はサービスしとくわ」

 はいはい、とっとと払って出て行かなくちゃ。えーと、日本円で許してくれるよね。1ユーロっていくらだっけ…。
 わたしは頭の中でそう言いながらショルダーバッグの中のお財布を探した。

 しかし…

「あ、あれ?」

 まさか、うそ! お財布が、無い!!


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