スイーツ王子と恋するレシピ
縮まる王子との距離
 店が終わり、恵斗さんと私は蜜子さんのウェディングケーキの試作品を作り始めた。

甘いモノが苦手な蜜子さんのために、恵斗さんが考え出したのは、スモークサーモンとほうれん草のキッシュ。そしてもう1種類、鶏肉とかぼちゃのパイだ。
 
「どっちも美味しいです~。恵斗さん、最高ですこれ!」
 試作品を一口食べて私はそう言った。本当にほっぺが落ちるんじゃないかと思うほど美味しかった。さすが恵斗さん! やっぱり天才!

「よし、じゃあ、これでいこう! あとはデザインをどうするかだ」
時計の針は12時になろうとしていた。
「もうこんな時間か。ブタコはもう帰っていいぞ。もう充分手伝ってもらったからな。あとは一人でやるよ」
「ううん! 最後まで手伝わせてください! 徹夜も平気です!」
「ブタコ……」
恵斗さんの目が優しく、潤んだ。そして…


「ありがとう」


 どっきーーーん!!!! ずっきゅうぅーーん!!


私は心臓を見事に打ち抜かれた。は、反則です、それぇ~!!

どきどきどき。高鳴る心臓。やだ! 静かにして! 恵斗さんに聴こえちゃう!

「こ、コーヒー入れますね!」
眠気覚ましのためにコーヒーメーカーで作っておいたコーヒーができている。
私は照れるのを隠すため、慌ててカップに熱いコーヒーを注ぎ、
「はい、恵斗さん、どう…」
そのときだった。足元に積んであったコンテナに気付かず、私は思い切り足を引っかけてしまった!

「あ!!」
「!!!」


「ぎゃー!! あっつぅー!!!!」


やっちまったーーー!!!
今世紀最大のドジを!!!


「ごめんなさい、恵斗さん、本当に、私ったら、ごめんなさい……」
「もういいよ、ブタコ」
私のぶちまけたコーヒーを右腕に浴びてしまった恵斗さん。すぐに救急車を呼び応急処置をしてもらった。全治1週間。包帯を巻いた右腕が痛々しい。すべて私が悪いのだ。泣いても謝っても切腹しても、この罪は許されない。

先に休んでいたオーナーは「幸い明日は定休日だし、来週から改装工事で休業する予定だったから。少し早めに休みに入ろう。ホームページで告知しておくよ」と言い、寝室に戻った。
そう言って私を責めることはなかったけど……。
私、きっとクビだよね……。
ううん、それよりも。

「しょーがねーよ。こーゆーこともあるさ」
悪魔のようだった恵斗さん、こんなときなのに私を気遣ってくれる!

「1週間くらいで火傷は治るし、兄貴が言ってたように店はなんとかなるし」
「でも、蜜子さんのウエディングケーキは……」
「いーよ、別に。もう、あきらめるよ」

ぶああああぁぁ!! 私の目から涙が洪水のように溢れてきた。

「わ、私がっ!! 私が作ります!!」
「は!? 何言ってんだ、見習いのくせに!」
作り方はわかってる。だってずっと恵斗さんが作っているのを見てたんだもん。

私は恵斗さんの代わりにキッシュとパイを作り始めた。

私なんかが恵斗さんのような美味しいケーキが作れるわけがない。
でも、でも。

やってみせる。恵斗さんのかわりに。


神様、一生のお願い。私に味方してください!
私に恵斗さんの才能を分けてください!

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