貴方が手をつないでくれるなら
「…よう」
「よう。…て、誰だお前!…あ、柏木か〜?はぁ…久々に甘い顔になっちゃって…。刑事には無駄にイケメンだな。どうしたのかな?ここ」
町田が顎を突く。
「…煩い。見ての通り剃っただけだろうが」
手を払った。わざとらしい事言いやがって。無けりゃ何か言われるとは思ったが、剃ったんだよ。少しは伸びてるだろうが。
「…罰ゲームか?はは~ん、さては…満足させられなかったのか…。だから…」
「違うわ、馬鹿。そんな訳あるか。それに直ぐ伸びるし。今だけだ」
「だよなぁ、なんてったって、百戦錬磨の柏木君だから?満足させられないなんて、そんな訳、無いわな~。エロ男だから、髭も直ぐ生え揃うって訳だな~」
…誰がエロ男だ。百戦錬磨はテメーの方だろ。
「髭があると、色々…、痛そうだもんなぁ。だから痛く無いように剃ったんだ?だろ?」
…煩いんだよ。この下衆野郎が。事細かく勝手に想像して言うんじゃ無いよ…。女の前ではジェントルマンを気取ってるくせに。
…思った以上に当たりが強いな。それだけ大祐も日向に対して本気だって事か。…フ。
「そうだよ。初めてがチクッとしたらしいからな。そうならないようにしたんだよ。それが何か文句あるのか?テメーには関係無いだろうが」
「おうおう、甘い事言ってくれちゃって。関係あるさ。じゃあ、俺も…」
顔をこっちに向けて瞼を閉じた。唇を突き出した。
「…はぁあ?お前何してる…」
「俺も。ジョリジョリ、チクチクしたのしかしてないから。俺も、今のでして?…早く~ねえ、悠志~」
…。
「何言ってんだお前は…」
「同棲中に…、だって、無防備に眠る悠志の寝顔が可愛くて、つい…」
「ついぃ?…あ゛ぁあ?…テメー、したのか?ぁあ?」
「そう。つい、奪っちゃった、チューーーッて。ウフフ」
…勘弁してくれ。
「馬~鹿、嘘に決まってるだろ?ハハハッ」
…。
「本当はどっちなんだ…」
「…一回だけ、しちゃった…。起きやしないかって、…凄くドキドキした」
手を重ねて胸に当てた。…乙女になるな、乙女に。
「ナハハッ、嘘だよ~」
「テメー…いい加減にしろよ」
嘘だと思っても大祐だから、解んないよな…はぁ。
「嘘に決まってるだろうが。する訳無いだろ?馬~鹿。あ、それより、鑑識君。お見合いさせられたみたいだぞ?」
「は?例の刑事部長のとこのか」
「ああ。それで気に入られちゃったみたいだぞ?」
「本当か」
「嘘だ」
…殺す。
「気に入られたのは本当だ、だけど、自分から断ったらしいぞ?スゲー、勇気あるよな」
「…本当なのか?」
「本当だ」
本当だろうな…。
「じゃあ、今まで通り、“仲良く”出来るんだな」
「あー、仲良く出来る。…あのさぁ。俺、人のモノには手は出さない主義だから。だけど、心の中の思いだけなら迷惑はかからないよな?…それから。人のモノでも、寂しくさせたり隙があったら容赦はしないから。そこんとこよろしくね~」
「…奪うつもりか、……俺を」
…。
「…ああ、そうだよ~ん」
…。
「違うに決まってるだろ、馬~鹿」
「解ってるよ、馬~鹿」
「柏木ー!町田ー!お前ら…いつまでも…いい加減にしろー。…面白過ぎて見入ってしまうだろ。会議始めるぞ、早く来い。…全く、フ、いいコンビだ」
「ナハハハ、あー、面白かった~」
「馬鹿、もうおしまいだ、行くぞ」
「あん。待って~悠志~」
はぁ…内股で歩くなっつうの。