貴方が手をつないでくれるなら
【日向、もうちょっと待っててくれ。あと20分で着く】
【だから、どこに着くんだ?もう転送したぞ?場所教えろ、俺も行く】
がっ、…またか。
【教えるか、馬鹿】
【残念でした〜。日向ちゃんが教えてくれました。今からイタリアンのあの店に行くらしいじゃないか】
…日向。教えちゃ駄目だろ。一番言っちゃいけない相手だぞ。どうせ大祐が上手く聞き出したんだろうが。
【日向ちゃんは悠志の部屋に居るのか?】
【煩い】
【そうなんだな】
…呆れて反論する気にならん。
【お前より俺が先に着けそうだな】
はぁあ?
【俺が先に迎えに行くよ。悠志は道すがら追いつけばいいよ】
【余計な事すんな、こら】
【それは日向ちゃんの判断だ】
…。
くそっ。大祐なんかと歩かせるか。
カチャッ!
「日向!…はぁ、日向?」
「はい?」
居た…はぁ、居た。良かった間に合ったか。日向に思わず抱き着いた。
「あ、柏木さん?どうしたんですか?」
「町田は?隠れてるのか?どこだ、町田!」
「町田さん?来てないですよ?」
「そうか。…はぁ、あー、疲れたー」
「どうしたんですか?」
顔を見合わせた。
「はぁ…町田が日向を迎えに行くみたいに言うから。日向、店に行くって言っただろ」
「あーだから、こんなに慌てて帰って来たんですか?」
「ああ。…だって、町田と二人、歩かせたくないだろ?」
…柏木さん。
「…フフ。きっとそれは町田さんの意地悪ですよ?」
「んん?」
「いつものようにからかわれたんですよ、きっと」
「…あー、はぁ、そうなのか?」
「そうですよ。きっと今頃、下で待ってますよ?」
「はぁあ?」
「フフ、そういう人じゃないですか、飄々とした策士ですから」
…日向凄いな。やっぱり、町田とだって、上手く渡り合っていけそうじゃないか。
「早いですけど、もう出掛けますか?」
…早いって言っても、もう、そう大差は無いだろ。
「少し…時間がありますよ?」
「ん?」
じっと俺を見てる。ん?…あぁ、…日向…?
「催促、なのか?」
「はい。…催促です」
日向が背伸びをして俺の首に腕を回しキスをしようとする。俺は屈み込むようにして日向に腕を回した。唇が触れる。
「…ん。はぁ…。私、ずるいんです。お店に電話を入れて、ちょっとだけ、予約時間遅らせて貰いました。だから…、町田さんは下で暫く待ちぼうけですね、きっと」
「日向…」
「だって…久し振りに会えたんです…」
日向、日向は凄いよ。手強いよ。…本当、強い。
「ヤる。直ぐヤる」
「ヤ、やるだなんて、違う…。違います!それ程の時間はありません」
何か前に…どっかで似たような台詞を吐いたな…ハハ…。
「じゃあ、直ぐ終わらせる」
「…嫌、駄目、そんなのは駄目…違う、今は…キスだけです。…キス、一杯して?」
お゙、こんなに…せがまれるのも悪く無いかもだが。…しかし…身体に悪い、悪魔だな。キスで止めさせるなんて。無理難題もいいところだ、俺の我慢が…限界に。
「…続きは帰って来てからですよ…」
…日向。もう、絶対一緒に居たい。町田になんかやらないからな。
…ん、…日向、ん。…ん゛ーー。
「…やっぱりしたい、日向…」
「駄目です…」
…はぁぁ。小悪魔め……。
「はい?」
「何でもない…行こうか」
「はい」
「あ、れ?居ないみたいだな…」
何とか切り上げて下に下りたら町田の姿は無かった。…何だよ…これも初めから解らない話だ。日向の言葉に思い込まされただけかも知れない。
「日向、手をつなごう」
「はい」
「俺もー!」
「え゙?」
いきなり現れたと思ったら割って入って来た。
は?…何が俺もだよ。やっぱり居たよ…、神出鬼没の男が。
「俺を侮っては駄目だよ?日向ちゃん。予定が変わった事くらいお見通しだよ?なんせ俺はあの店の常連なんで。つうかあってヤツ?」
はぁ…客の守秘義務はどうなってんだ。知り合いだから、どうせ上手く丸め込んで聞いたんだろうけど。
「駄目だ。繋ぐな馬鹿」
「えー、何だかんだ言って、俺、まだ手は繋いだ事無いんだよ?一回くらい、悠志の居る前だからよく無い?」
「駄目に決まってる」
嘘言ってんじゃないよ…。知らないとでも思ってるのか?繋いだ事あるだろうが。
「えー、だったら悠志と繋ぐ~」
…科を作るな、科を。腕を絡めるな…。
「えっ?!…柏木さん…」
「は?違う、違うに決まってるだろ」
「フフフ」
「ナハハハ、日向ちゃん面白い」
はぁ…いい加減にしろよ、お前ら。二人はよく似てるのかも知れないな。そうだよ、大祐もプライベートは天真爛漫…まあ、自己中とも言うが。
「離れろ馬鹿。いつまで掴んでるんだ。どんな関係性だ、こんなの」
俺を真ん中に日向とは手を繋ぎ、大祐に至っては腕を絡めて、その上もたれ掛かっている。…はぁ、訳が解らん。