貴方が手をつないでくれるなら
…結局だ。店に着いたら大祐は大祐で、ちゃっかり自分の分も追加注文を入れていて、三人でテーブルを囲む羽目になった。
…悪夢だよな、これって。
これでこの後、ついて来るなんて言い始めたら更に最悪だ…。そこまで無粋では無いだろうが。
なんとしても帰すけどな。
やっぱりだ。どこまで本気で言ってるのか知らないが、俺ん家に来ると言う。
はぁ…入れなければ済む事だ。
帰り道、日向は町田の、繰り出すように出てくる話に、楽しそうに返し笑っていた。確かに大祐は話が上手いし、話題も尽きない。こいつとだときっといつも楽しいだろう。
…。
マンションに着いた。何も言わずに居てみる事にした。
「町田さん、お話、凄く楽しかったです。では、おやすみなさい、気をつけて帰ってくださいね」
あ、…ハハハ。やられたな、大祐。スパッと一刀両断だな。日向に言われては帰るしかないだろ。
「あ…は、では、おやすみ。悠志もな」
「ああ。送ってくれて有り難う」
「フン。ああ。刑事の護衛だ。有り難く思え」
フ、あっさり引くもんだな。
「あ、メール、するからな!」
「いらん、欲しくない」
邪魔すんな。
「いや~、するもん。どうせ、悠志、また、間違ったって言って、送って来るんだから」
…お前は、彼女か。日向と一緒に過ごすのにメールなんかするか。間違いメールなんて発生しないんだよ、今日は。
大祐が確実に帰ったのを確認して部屋に上がった。
「フフフ。良かったですね、あっさり帰ってくれて。もしかして歪な川の字で寝ないといけないのかと思いました」
それ…やっぱり俺が真ん中って事か。想像もしたくないな。否、日向を真ん中にして、なんて言うかもだ。
「んな訳無いな」
あり得ない。
「フフ、そうですね」
「…日向」
玄関で日向を抱き上げた。…もう待てない。我慢の限界だ。ベッドに寝かせた。
大祐がずっと一緒だった事もあったからだろう。
息のあがる日向を、少し…かなり容赦なく抱いた。ヤキモチだ。俺は、…小さいな。大祐の言う通りだ。ヤキモチを日向にぶつけた。
「…柏木さん、事件て、色々な結末ってありますよね…」
「ん?そうだな」
俺の胸に手を置いていた日向が急にそんな事を聞く。まあ、よく解らない職業には興味を持つものだろう。色々な結末……しかし、何故それを聞く…。
「犯人を無事逮捕する時もあれば、捕まりたく無くて…死んじゃう事もありますよね…」
「…そうだな」
自分の誘拐の事か?何か知りたい事があるのか。
「…犯人が死んだ時って、その被害者が居た時、事件に関する全ての話は信用されるものなんですか?」
「…勿論、不審な点が無いか裏を取るよ?被害者が言ってる事だからといって、最初から疑わず、鵜呑みにする事は無い」
…どうした。……隠していた事でも…あるのか。…嘘の証言でもしたというのか。……日向?。
「…そうですよね。可笑しな点があったら、それは調べますよね…警察ですもんね」
「そうだな。…事件によっては解り切らない事も無いとは言えない」
「…え?有耶無耶になる事も…あるって事ですか?…」
「んー、難しいな。どんなに調べても解らない事は、解らないまま、だな。結果、出来る範囲での終了って事になるかな」
「はぁ、そうなんですね…」
ん?……安心したのか。……そう、…か。
「…心配しなくていい…」
聞こえるか聞こえないか、それほど小さな声で呟いていた。聞き取れてはいないだろう。
…例え犯人と日向に、……何かあったとしてもだ。
「…ぇ、あ」
「怪しい点が無いと判断されたものは、再捜査される事はまず無いもんだ。…日向にはお兄さんも俺も、まあ、町田も居る。どんな状況でも、二度と恐い目に遭うような事はない。…大丈夫だ」
あ、…、柏木さん。…柏木さんは…解ってる…。
「日向…俺は、こんな奴だ。だけど、日向の事を守りたいと思ってる。どんな事にも絶対って無いけど、日向の事は全力で守るから。
……恐かっただろ、…気持ち悪かっただろ…。誰にも言えなくて閉じ込めて…、辛かっただろ。
でももういいんだ。心配ない。事件はとうに終わってるんだ。いいか?終わってるんだ。俺が居るから大丈夫だ。
日向、好きだ。俺は日向の事が好きだからな?明るくて強い日向を尊敬しているんだ。
こうやって…手をつないで、俺とずっと歩いてみないか?それ以上、何も望まないから」
胸の上でギュッと握り締め、震えていた日向の冷たい手を握った。
「…柏木さん…私…私は…」
頭を胸に押し付けるようにして抱き寄せた。俺は首を振った。
「はい、っていう言葉を貰うまでは諦めないから。諦めは悪いんだ、職業柄な。あ、それに馬鹿だし。日向に、やっぱりつき合わないっ言われても、納得出来るまでは諦めないって、お兄さんにも言ってある。簡単には離さない。男女の仲にだってなったんだからな?日向は誰にも渡さない。…触れさせないから」
「柏木さん…」
抱きしめていた日向の身体。更に強く抱きしめた。俺が守る、守り抜く。
「…柏木さん、じゃ無い。欲しいのは、はい、だ」
「…はい。……はい」
「うん。…言わせてしまったかな。これは立派なパワハラになるな…モラハラか。でも返事は貰ったからな」
「…はい」
「まともなデートは難しいけど、散歩、行こうな」
布団の中、日向の手を取って繋いだ。
「はい。いつも手をつないでです」
「ああ、…ずっと。これからずっと一緒だ…」