貴方が手をつないでくれるなら
ブーブー、ブーブー…。
電話がずっと鳴り続けてる。もしかして刑事さんかも知れない。タイミングからして、多分、間違いないと思う。…ごめんなさい。意地悪をしてる訳ではありません。
「有難うございました。
いらっしゃいませ、どうぞ」
ふぅ。こっちのタイミングが悪い。お昼時のお客さんで急に立て込んでしまった。
…ごめんなさい、出られなくて、ごめんなさい。決して思わせ振りな態度を取っている訳ではないのです。
「あの~、すみませ~ん。これ、別の色ありますか~?」
「は~い、直ぐ行きま~す。少しお待ちください。
…ごめんなさい、有難うございました」
…ふぅ。やはり、季節柄、ギフト扱いが多い…。
「はい、お待たせしました、どの分でしょうか?」
「…ただいま」
「あ、お兄ちゃん…おかえり」
「…どうした…見るからに疲れてるな」
「もう…、お昼にしてって言わなきゃ良かった…。今まで一人で大変だった」
「ハハ、だからか。そうかそうか。そりゃあ悪かったな。頑張ったな一人で」
セルフのミルクティーを持って来てくれた。
「一息入れるか?ほら」
「あ、うん、有難う」
よしよしと頭をポンポンされた。
「あ、ちょっとだけ裏に行ってもいい?」
「ああ、いいぞ、ゆっくり飲んで来い」
「うん、有難う。じゃあ、ちょっとだけ」
カップを持ちスタッフルームに行った。
エプロンのポケットから携帯を取り出して見た。…やっぱり。刑事さん。
着信の番号は柏木悠志さんだった。…ごめんなさい。
私が町田さんにした事、言った事が伝わっていたなら、まさか、私が架けて来るなんて、思ってなかっただろうに。鳴らして、結局直ぐに切らなくちゃいけなくなってしまった電話、私だって思って架けてくれたのかな。それとも、誰か解らないから、取り敢えず確認の為に折り返した?
…今なら架けられるけど…むやみやたらに架けても…。職業柄、大事な仕事中かも知れない。架け辛い…言い訳?。取り敢えず、さっきの電話に出られなかった事は弁解しておきたい。
あ…私、自分だけ…、自分の事だからって、謝る機会を作ってる…。この気持ち…。柏木さんだって私に謝りたくて機会を作ろうとしてるのに…。
可能な限り文字を入力してメールをする事にした。
【こちらから電話をしておきながら直ぐ仕事が立て込んで来て切ってしまう事になりました。折り電を頂いた時もまだ立て込んでいて出られませんでした、ごめんなさい】
【私は私の都合でこうして謝れました。その事を考えた時、貴方が謝ろうとしてくれている事をそのまま放置しようとしていた事がとても大人気なく思えました】
【確かに突然、しかも誘いの言葉だった為、不快しかありませんでした。納得した理由ではありませんが仕事で凄く疲れていたと聞きました…男性ですし、お茶も無かったし余計苛々したのでしょう】
【もう謝って頂かなくても大丈夫です同僚の方から貴方が本当はいい人だと熱弁して頂きましたので凄く読み辛いかと思いますがお仕事に差し支え無いようにと】
言いたい事を四分割。急いで送った。文字も詰めたし、句読点も省いたところもある。かなり長いけど。送った。
これでいい、終わりでいい。