貴方が手をつないでくれるなら
大量の出血…。想像したら血の気が引きそうになる。…危なかったなんて。はぁ、でも順調に回復しているようで良かった。
返信はしないと解っていても、柏木さんに時々メールをしていた。
勝手に送っているだけだからと前置きをして。
怪我を治す事が先決だから、私に会って謝る事は気に掛けないで欲しいと。
怪我と比べたら、謝る事なんてどうでもいい事だから。
最初に連絡があった通り、最後のメールからメールが来る事は無かったから、治るまではしないって事に変わり無かった。
もしかしたら、一切合切連絡を絶つ為に、電源は切られているのかも知れない。電話を架けてみた事は無いから解らないけど。
町田さんは、どうやら私のアドレスや番号は知らないままのようだと思った。そしてそれを柏木さんに問う事もしていないんだと思った。…必要無いから、…かな。
今日、ここに来てくれたのは、柏木さんの事で私が心配しているだろうから、経過を知らせに来てくれたんだ。
報告なら、アドレスを知っていれば、メールで済む事だから。
…顔が見たかったとか、そんな事とは違うのよね?…。
…私もそろそろ戻らないと。
「あのー、ちょっとー、待ってくださ~い」
…え?…町田さん?
何かを手に持ち凄い勢いで戻って来ていた。
「がっ、は、はぁ、はぁ、…はぁ。すみません、…名前、まだ…知らなくて。…はぁ。
はぁ、なんて呼び止めていいか、あの、…これ」
「はい?え?」
「さっき、来た時にあげようと思ってたのに、…はぁ、は、話し始めたら、すっかり忘れてしまって、…はい、あげます。
嫌い?」
手にしていた物はプリンだった。
「コンビニのこのプリン、俺もあいつも好きで。疲れた時とかに食べるんですよ。貴女は普通にどうかなと思って。
あー、開けて何か混入したとか、針で穴を開けたとか、そんな事はしてないですから。安心、安全なプリンです、どうぞ?」
あ、…それって、私が柏木さんにお茶を渡す時に言った事と何だか似てる。
「フフ。そんな事は思いません。プリン好きです。頂いてもいいんですか?」
「はい、そのつもりで買ってたんです」
どうぞっていう目で見つめられた。
「では、ご好意に甘えて、頂きます」
受け取るつもりで一旦手を出したものの、ほんの少し躊躇って引きそうになった。
出した掌の下に手を添えられ、乗せられた。
「…はい、どうぞ」
…少しドキドキして苦しかった。
「あ、あの、私、まかべひなと言います」
「え?まかべさん?」
「はい」
「では、まかべさん、失礼しますね。袋が無くてごめんね」
「いえ、大丈夫です、有難うございました」
プリン…。柏木さんも好きなんだ。