貴方が手をつないでくれるなら
カ、チャ。
「柏木、帰ったぞ~」
「お…おお、お疲れ」
「フフ、土産だ」
「は?何が、どこに」
これの事か?確かに袋は色々手に提げてるけど、土産と言うより普通の買い物の物だろ。
「眞壁さんに名前を聞いた」
「あ?何?」
「ほら、俺らは勝手に知ってるけど、本来は知らないはずじゃないか」
流しの作業台に袋から次々に容器を取り出していた。
「あ?ああ、確かに。俺…、忘れてたな、その事」
「馬鹿、うっかりメールで名前なんか書かなかっただろうな」
「う~ん、多分な」
「大丈夫か?あ、それでな、なんて呼んだらいいか解らなくてって言ったら、はっきり、眞壁日向って教えてくれたんだ」
「お前…、また会ったのか…」
「いや、抜け駆けとかじゃ無いって。ギブアンドテイクみたいなもんだ、まあ、結果的にだけどな。お前の近況報告だよ」
「それで、テイクが眞壁さんの名前って事か」
「それは偶然の産物のようなモノだけどな」
「よく解らんが、じゃあ、名前を出してももう大丈夫って事だな」
「まあな、俺から聞いたって事で成立だ。今日はな~、遅くなったからテイクアウトして来たぞ」
「何だよ、ギブアンドテイクだとかテイクアウトだとか、色々言うな、何だかややこしい」
「これの事だよ、晩ご飯。ご飯も入れて貰ってるからそのまま食べられるぞ。料理屋でメニューから色々と詰めて貰ったんだ。今日は豪華版。さて…後は…お茶だな」
「そうか。大祐に食費とか払わないとな」
やかんを火にかけた。
「そこは、ちゃんとレシート取ってあるから、折半な。お前が回復した後で全部精算するから」
カチャカチャとカップを取り出している。
「…ちゃんとしてるな」
「こういうのはその方がいいだろ?」
「ああ、お前からいいよなんて言われたく無い。俺も、世話になってて悪いからって、奢るともな、言いたく無い」
「だろ?変わり無かったよ、眞壁さんも。お前の出血の話で、もしかしたらって心配したけど…昔を思い出して、特に辛そうっていう風には見えなかった。
ただな、これは微妙なところなんだか、手に触れそうになる前に、戸惑いはあったように見えた」
「…お前、彼女の手に触ったのか」
「触って言うか、たまたまだ。プリン渡す時に当たった、ちょっとだけな」
「プリン?」
「プリン」
「…プリンね~」
「…プリンだ」
当たった?ギュッーと握ったの間違いじゃないのか。本当かどうか疑わしい話だな…。まあいい。
「あ、俺、来週から仕事するから」
「医者は、もういいって?」
「ああ、無理しないって事で、だ。だからぼちぼち身体も動かしておかないとな。急に走れってなっても走れない」
「まぁな~。身体ってすぐ鈍るもんな。だけど、まだきつい運動は駄目だろ。
あ、眞壁さん、金曜以外も居るらしいぞ?確率高くなるだろう、てさ」
「そうか…」
色々話してるんだな。多少の時間があったって事か。
「ん?何」
「いや、何でもない」
顎を撫でた。考え事をする時の癖だ。
お湯が沸いた。町田は手際よくティーバッグを入れた。
「テーブル、持って来る。ご飯にしよう」
「ああ」
近くに除けていた台をゴロゴロと引っ張りセットした。