貴方が手をつないでくれるなら
「よう。もう戻ったのか?良かったな」
「あ?良かったって何だよ」
「惚けんなよ、雨なのに居たんだろ?」
「あ?…ああ、居た」
「珈琲は旨かったか?」
「ぁあ?お前…、つけてたのか?」
「いいや、お前の帰りが遅いし、珈琲の香りがしたから。言ってみただけだ」
「ふん、相変わらず鋭いな」
「次の約束はしたのか?」
…探っているのか。
「そんなもんはしてない」
「まあ、あの通りに行けば会えるもんな」
…行くつもりなのか。
「それは、お前もな」
「そうだな」
「おい」
「ん?みんなの並木道、みんなのベンチ、だろ?」
…行くって言ってるようなもんだろ。
「…そうだな」
「フ。お前は正直だな。またベンチに行くからってくらい言って来たんだろ?俺じゃなくてもそのくらい想像はつく」
「…ああ、言ってきたよ。約束じゃないからってな」
「…ふ〜~ん。だけど、良かったな、雨なのに居てくれた」
「ああ、レインコート来て傘を差して座ってた」
「…へえ。ちょっと待ってみるつもりじゃなかったんだな。長く待つつもりだったんだ。良かったな」
「さあ…、それはどうだか。早く会えるようにして早く終わらせたかったのかも知れない…」
「そうだな。そっちだな」
「おい」
「フ、まあ、会ってたら、追い追い解るって事よ。その内また、思うように行けなくなるかも知れないんだし。行ける時はこれでもかってくらい行かないとな。機はいつもあるもんじゃない。なあ、死に損ないの悠志君」
RRRR…。
「はい、捜一。…はい、…はい、…解りました。
二丁目で殺しです」
「ほら来た。また暫く無理かもな。行くぞ」
「ああ」
こんな日々を送っているんだ。嫁どころか、女性とまともにつき合おうなんて所詮無理な話だ。一緒に居れば居る程、寂しい思いをさせるだけだ。
「お~い。柏木。無理すんなよ?復帰してまた直ぐ怪我して帰って来るなよ。なんなら町田を盾にしろ、な」
「なんすか、それ」
「解りました、そうします」
「フ、一回だけだぞ、馬鹿」
「いいのかよ」
「いい訳ないだろ」
パンパン。課長が手を叩く。
「冗談は終わりだ。気を引き締めて行けよ」
「はい」