貴方が手をつないでくれるなら
最近の日向は元に戻っている。ボーッとする事も無く、変わらない。
変わったのは、前にもまして昼休みに外に出るようになった事だ。
…行き先は並木道なんだが。
昔は雨が降っていたら行かなかった。それが今は土砂降りは別として、シトシトと降る小雨程度なら、レインコートを来て傘を差して出掛けるようになった。
そこまでして行く理由が余程あるのだろう。
最初は溜め息をついて帰って来た事もあったが、今はいつも変わらない。というより…。んん。
そんな日向を見て…落ち着かないのは俺の方か。日向の周辺で何かが変わりつつあるようで…。
柏木さん、喫茶店でお詫びを言って貰ってから会わなくなった。また忙しくなったのかも知れない。
それとも、あの言葉は社交辞令みたいなモノで、お決まりの挨拶だったのかな。
私が上手く話せなかったから、実は凄く繊細な人で、傷つけてしまったのかも知れない。約束じゃない、って言った。
…会えたらの話だ。
「こんにちは、邪魔していい?」
あ、この声は。
「町田さん」
「ちょっと通り掛かって。ごめんね、俺で」
「え?いえ、そんな」
いえいえと手を振った。
「忙しくなっちゃってね、あいつもずっと来てないでしょ」
「あ、はい、多分…」
「何か、言付かろうか?あ、いや、余計なお世話だね。連絡は自分達で出来るんだし」
…そうなんだけど。
「ん?どうした?最近連絡してないの?」
「…特には」
「あれ、そうなんだ。あ、じゃあ、まあ、あいつなら元気にしてるから、その点は心配ないよ。
ごめんね、行かなきゃ、じゃあね」
「あ、はい」
町田さん…、もしかしたらわざわざ来てくれたのかな。忙しくて、時間が無いのに。
連絡か…。だって、元々謝罪の為に教えて貰った連絡先だし。…心配で連絡してた事も終わったし。…なんだか。
何も無くなったら連絡するのは、今更だけど出来ない気がする。だって…関わり合いはもう無いから。
元気ですか、なんて、毎日聞けない。だって、親しい間柄って訳じゃ無い。
ブー、…。
【日向、帰って来てくれ~。忙しくなったぞ~】
あ、いけない。ごめん、お兄ちゃん。時間過ぎてた。
【すぐ帰るね】
ボーッと考え事してる場合じゃ無かった。急がなくっちゃ。
はぁ。…あ、れ、居ない。居ないじゃないか。…はぁ、はぁ。
あ、そうか、そうだ。もう時間はとうに過ぎていたか。…はぁ、…はぁ。
それにしても、町田の奴…、もっと早く言ってくれればいいものを。今頃、あ、そうそうなんて言うから。
どっちにしても最初から来れなかったんだけどな。少しでも会えたらと思ってはみたが…。
はぁ、疲れた…。一服してから帰るか。
煙草と灰皿を取り出した。