貴方が手をつないでくれるなら
「悠志、これで納得か?…俺達は彼女の人生に関わる人間じゃ無い。だから、彼女にしてみたら、ちょっと変な男に声を掛けられた、それだけで終わって良かった事だったんだ。お前にしてみたら、知らなかった、悪気は無かったんだけどな。ま、言った言葉は最低だったな…。
鑑識君が言ってたが、それにしても…ちょっと異質な誘拐だったんだな。…何がしたかったのか。…ただ一緒に暮らしてみたかったとか…なんだろうか。…そんな訳、無いよな…。いざ連れて来たら勇気が無かったのか。それにしても…ん゙…何だか腑に落ちないな。……本当なんだろうか…。拉致…監禁…か。なんで死んだんだ。罪の意識か?そんな繊細だったのか?やっぱり特異な精神状態だったのか……。犯人の野郎…、生きて確保されていたら、精神鑑定もんか…。
俺ら知らなかったとは言え、…今でも恐いんだろうな、男ってもんが。それに繋がる似たような場所や状況もだよな」
…自殺……か。本当に…何も無かったのか…。
「何も無かった…か…。何も無かったとは言い切っちゃいけないだろ。思春期の女の子にどれだけの異様な恐怖を植え付けたか…。それを思ったら…例え肉体的な事で何も無くても、何も無かったなんて簡単には言えないよな…」
「……。あ、あぁ…。ああ。…はぁ、我ながら…なんて軽い…酷い事を言ってしまったんだか。…最低だな。冗談になんてならない事を。この口と、ココのせいだ」
頭を突いた。…言ってしまった事は取り消せ無い。長期の捜査から解放された俺はあまりに軽率で迂闊過ぎた。…はぁ、何年刑事をしてるんだ…。
「…あのな、悠志…」
肩に手を掛けられた。解ってるよ、落ち込むなって言ってくれてんだろ?
「あのベンチにまた来るかな」
「ぁあ?いや、お前が居るかもって思ったら、もう来ないかもな」
「だよな…はぁ、俺は…最低だ。ヤラせろとか言ったし。ヤラせろだぞ…何…言ってんだろな。いきなり傷つけて、彼女の癒しの場所まで奪っちまったかも知れない」
…肩に腕を回された。
「お前のその懺悔の気持ちは代わりに俺が伝えてやるよ」
「…ぁあ?」
「俺に任せろ。な?俺はまだちゃんと会ってない。だからお前みたいに警戒もされない。だから、殊勝な気持ちでお前が謝っていたって、伝えてやるよ」
…そんなのは駄目だ。
「いや、いい」
「なんでだ…」
「何でも何も、俺が自分で言うからいいんだ」
…謝るのに代理なんて、そんなのは謝罪にならない。当たり前だ。
「はは~、さては…」
「…何だよ」
「いいや、何でも無い。とにかく、昼時に張ってたら解るだろ。いつも来てるのか、今日…水曜だけなのか。走って帰ったとするなら、雰囲気からしてこの近くが住まいなのかも知れないし。流石に昔の住所にはもう居ないだろうからな」
「ああ」
そうだな。引っ越すだろうな。
「じゃあ、一先ず、今日は解散。お疲れ」
「ああ、お疲れ」
「あ、おい悠志。抜け駆けするなよ?」
「はっ?抜け駆けって、お前が何言ってる。…まさか、お前」
「ああ、その、まさかだ。俺も眞壁日向ちゃんに会ってみたいんだ。ふざけている訳じゃないからな」
…こいつ。俺より会う気満々じゃないか。
「もし先にお前が会っても、俺のした事は俺が謝るから、余計な事、言うなよ。絶対言うな。俺が自分で謝るから」
「解ってる。じゃあな」
「…おう」
本当に分かってるのか。
眞壁日向。現在は、…29歳になる、か。
俺らがまだ学生の頃の事件か…。