貴方が手をつないでくれるなら
はぁぁ…何もかも嫌になりそうだ。人がそう口にしているのを今までは聞き流していた気がする。今解った。実感した。それって、あーこんな事なんだなって。…自滅だ。
しかも、これが……経験のない嫉妬だなんて。
町田にメールをした。
【料理の代金を教えろ】
それだけを送った。はぁ、…これだけしか言わないから、俺がどんな状態で居るのか解っているはずだ。それも腹が立つ…俺は解かり易い。あいつはほくそ笑んでいるかも知れない。
町田からのメールは、すぐ返って来なかった。
帰る途中、小さな公園が目に入った。
中に入りベンチに座った。突起のないフラットなベンチ。煙草に火を付けた。本当なら吸ってはいけないエリアかも知れない。夜で誰も居ない。見逃して貰おうか。
フ、俺がする事でも、言う事でも無いな。人としても刑事としてもアウトだ。
…ふぅ。とてもじゃないが真っ直ぐ部屋に帰る気にもならない。はぁ、少しはここに救われたな。
…あー、…そうだ。そうだ、…そうだよ。
今夜の町田の一連の事は、抜け駆けでもなんでもない。それだけ眞壁さんの事を思ってした事だ。そうなんだよ。元はそれだ。はぁ…、気がつくんじゃ無かった。余計落ち込むわ。…ふぅ。
女性が色々気をかけて、自分磨きをする事を女子力が高いというなら、町田のような気の利いた振る舞いの出来る奴を、男子力が高いとでも言うのだろうか。そんな言葉に当て嵌めなくても、何が人を喜ばせるのか、それを考えて出来る男なんだ。はぁ…なんで改めて町田の事を見つめ直してるんだか。…全く。
ブー。…町田だな。
【悪い、寝てた】
なんてタイミングで寄越すかね…。フ、どうやら今夜は本当に寝てたって事なのか。時間差をわざと作ってそう思わせたいのか。どちらにしても大祐は策士だな。
【もう帰ったのか?バーには誘わなかったのか?】
【バー?どこかお勧めでもあったのか?】
もしかしたら、そこんところも用意周到だったのか。
【いや。あるにはあるさ。だけどまだ今夜はアルコールの匂いをさせて帰すには早過ぎるだろ?一緒に暮らしているお兄さんに、お前がどんな奴なんだよって、不信を抱かせてしまう元だ】
は、…流石だな。じゃあ、食事の後、調子に乗ってもし誘ってたら危なかったじゃないか。行かないけど。
【眞壁さん、ベタ褒めだったぞ、お前の事。代わってやりたいくらいだったよ。お前の話ばっかりしてた】
【へぇ】
何がへぇだ、この野郎…。よし、とか思ってるだろ。
【お前、俺が来る前、眞壁さんに何か言ったか?それとも何かしたのか?】
両方……あり得るな。
【それは…さあな、だ。知りたきゃ眞壁さんに聞けよ】
聞ける訳無いって知ってて言ってやがるな。何かあったって言ってるようなもんだろ…。
【いくらなんだ?眞壁さんの分はいらないとか、お前言いそうだが、今夜の二人分は俺がきっちり払うからな】
【ああ、明日にでも言うよ。今、明確に解らないし】
【精々勉強させて貰いますよ】
【あ?何だ?昇進試験の事か?】
すっとぼけやがって。違うに決まってるだろうが。こんな時はわざとボケやがって。解り辛かっただろうが、お前の男子力の事だよ。
【するか、ボケ】
【俺はしてるぞ】
【本当か】
【するか、ボケ】
…ん゙ー、くそー、解らん奴だ。これで実はしてたりしてな。…別にそれはどーでもいいんだけど。
【んじゃ、おやすみ】
【おやすみ~】
フ、今更ながら掴めない男だ…帰るとするか。暢気になんてしてられるか。