貴方が手をつないでくれるなら
・攻撃は最大の防御
「おい、柏木、町田、ちょっと来い」
「はい」「はい」
「町田、お前、何かしたのか?」
「俺じゃ無いだろ、何かするとしたらお前の方だろ。新人虐めでもしたんじゃないのか?クレームが出てるんじゃないのか?」
「馬鹿、目茶苦茶、可愛がってるってーの」
「その可愛がってるって、意味が違うんじゃないのか?」
「お前の方こそ、ねちねち虐めてるんじゃないのか?あ、あれだ。解かりづらいボケが滑ってるんじゃないのか?鬱陶しいって思われてんじゃないのか?ぁ゙あ゙」
…。
「ん゙ん゙。どっちでもいい。…いいから早く来い」
課長が俺らに何だってんだ。まさかの異動じゃないよな。肩を押し合ってデスクに向かった。
「…はぁ。実はな、これなんだ」
あ、な〜んだ…しかし、これは勘弁だ。引き出しから取り出された物を見て俺も町田も顔を見合わせて立ち去ろうとした。
目の前に出された物は、見た目からして見合い写真のようだった。
「待て待て…。まだ何も言ってないだろ。
いいか、実はな、これは刑事部長のところの娘さんの写真なんだ。お前らのどちらか、見合いしないか?
お前らならって、部長は乗り気だ。ま、成績優秀ってとこがだ」
表紙を開いて薄紙をめくり見せられた。
…お。顔をゆっくり見合わせた。
「…俺らは、そういうのは…、な?」
顎に手を当て髭を擦った。
「あ、ああ。見たところ随分若そうじゃないですか。まだ学生ですよね?彼女」
「そうだ、まだ大学に通っている」
…また顔を見合わせた。
「無理です」
「俺も無しです」
課長が交互に顔を見てくる。ここは何としても断っておかないと、だ。
「一回り以上違うんですよ?無しです、無し」
「俺も、そこそこ年相応で無いと、相手は出来ません」
「はぁぁ、…そうか。向こうは落ち着いた人が好みらしいんだが」
「だったら俺なんか、全然駄目に決まってるじゃないですか。歳はくってても落ち着きは無いですから。おまけに強面ですから」
「俺もです。俺は強面ではありませんが。まだ落ち着く気はありません」
「全く…揃いも揃って、…嘆かわしい。予定は無いだろうが、家庭を持つ気は無いのか?」
「ありません」
「まだありません」
「そうだ。課長、いい奴が居ます。将来有望な奴が、な?」
頷きあった。
「ああ。そう、そうだ、課長。鑑識にお勧めのホープがいます。あいつならピッタリかと。年齢的にも合うと思います。若いですが落ち着いています。とても柔順ですし、それに、割とイケメンです」
…はぁ、俺はお前らを落ち着かせようとしてるだけだ。鑑識の若者が割とイケメンとは…、誰と比較した話だ…。
「あー、もういい。ごちゃごちゃ言うばかりで…話にならん。二人共、何としても嫌なんだな?解った、用は終わりだ。戻っていいぞ。
あぁ、その鑑識のホープとやら、名前を教えろ。どうせ、お前らの言う事を聞かせてる奴なんだろ?」
「危なかったな…」
「ああ、タイプが…、ちょっとキツかったしな。危なく無理矢理押し付けられるところだった。それに刑事部長と親戚にはなりたくないよな。まして、お義父さんなんてな。考えられん。あ、俺、今日、眞壁さんの店に行ってみようと思うんだ」
何?!…何をしにだ。
「…へぇ、いいんじゃないのか」
…何を企んでいるんだ。何か畳み掛けるつもりか?
「じゃあな。あ、お前のとこの若造、使えそうか?」
「まだ事件らしい事件が無い。海のモノとも山のモノとも…。当分お茶くみだな。お前のとこは?」
「こっちも右に同じだ。優秀なのは成績の事だからな。実戦となるとどうだか…。まあ、解らないな。じゃあな」
「おう」
町田…。店に行ったら必然的にお兄さんにも出くわすって事になると思うんだが。…それも含めてって事か。まさか…挨拶をしに行くつもりなのか?いや、流石にそれは気が早いというものか。
しかし、あいつだからな。何をするのか読み切れん。