貴方が手をつないでくれるなら


「あのね、好きだって言われたのは、別の人。コンビを組んでいる刑事さんの方」

「怪我した時に代わりに連絡をして来たって人か」

「うん、そう」

「日向は、その人ともつき合いがあるのか」

どういう事だ。あっちはフェイクだったのか。…それは無いな。あの威圧的な刑事は、日向と出掛けておきながら、何をモタモタしてるんだ。威勢がよさそうなのは見かけ倒しか?

「つき合いというか、えっと、話し辛いから名前を言うね。映画に行った人が柏木さんで、好きだって言われた人が町田さんて言うの」

「解った。それで?」

どうなってるんだ。

「あ、うん。つき合ってるって言葉の意味が違うというか。二人共、連絡先を知っているからメールをしたりしてる。短い時間だけどお昼に会う事もある。そんなつき合い方をしているの」

「その、町田さんていうのは、どんな人なんだ?」

「それが…本人は、ずるい、いい人では無いと言うの」

は?…確かに。そんな事を言って来る事から始める男は、一筋縄ではいかない男だ。

「顔はいいのか…」

「え?あ、それは、抜群にいいと思う。語弊があるかも知れないけど、刑事さんには見え無い。ほら、俳優さんが刑事役をしているみたいに見える感じ?柏木さんの精悍な感じとは真逆かな…」

……優男か。手馴れてるな…はぁ、やっぱり…、益々そいつは油断ならん男だな。

「日向から見たらどんな人だと思うんだ?」

「んー、なんでもスマートというか、さりげなく気配りが出来る人というか、先を読める人って感じかな…」

…出来過ぎている。胡散臭いじゃないか。見た目のいい男というのは、多方面で何かしら経験も豊富だ。人の扱いに慣れているからな。妙に熟れているところがある。
これは上手く立ち回る男に対する俺の嫉妬もあるんだが。どうもいいようには受け取れないな。

「柏木さんの事は、どんな印象だと思ってる?」

「うん。最初こそ、変な事をいきなり言われて嫌な印象しかなかった。
でも、それもあったから余計思うのは…正直な人かな。不器用っていうか、言葉も素っ気ない時があるけど、だからそれが解りやすいし。誠実な感じがする。
フフフ、ある意味、柏木さんもずるいのかも」

「日向?」

「あ、だって、いつも恐そうな顔つきをしてて、髭も生やしていて、見た目、威圧感たっぷりで。でもその人が、真っ直ぐで誠実な人なんて。ギャップがあるってところがずるいと思う」

「そうか、そう思ったか。そういうのを魅力と言うんだよ」

「え?」

「ん?なあ、日向。暫くそのままで居て見ればいいよ。今まで通り、つき合っていたら自然に解ってくるから。今更焦るな、いいか?向こうから色々言って来たりしても、好きに言わせておけ」

「う、うん、何だかよく解らないけど、それでいいの?」

「ああ、勝手に競わせておけ」

「え?競うって…」

「今夜、一緒に寝るのか?寝ないんだろ?さあ、もう、出た出た。早く寝ろ。明日は朝ご飯、日向の番だろ」

立ち上がらせ背中を押しながらドアに近づいた。

「あ、うん。そうだけど」

「今夜はきっとよく眠れるはずだ」

ドアを開けた。

「そうかな…。あ、お兄ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃんは一緒に居たいし、失いたくない人だよ?おやすみ」

「…あ、あぁ、…俺もだよ…おやすみ」

「フフ、うん、おやすみ」

…はぁ、余計な事を…。悪びれないで言うな…。人の気も知らないで。全く…無邪気で困る。
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