貴方が手をつないでくれるなら


…ふぅ。空を見上げた。

【こんばんは。この間はきちんと送りもせず、拗ねた子供のような態度を取ってしまい、すみませんでした。
能が無くて申し訳ないのですが、時間の都合がついたら、また食事とか出来ますか?】

相変わらず堅いかな。だけど謝るのに緩いのは駄目だ。
食事って言っても大祐が予約したような店が好みなら、俺は無理かな…。
あそこはそこまででも無かったけど、畏まったところはどうも好かん。自分に無いモノをフル活用する事は出来ない。無理して見せたところで、疲れる、続かない。
こんな…努力もしない男だから、町田みたいな事が出来ないんだな。


う…、ん?…柏木さんだ。
こんな時間に仕事をしているのかな。それとも家からなのかな。

【こんばんは。映画はもう観ないのですか?】

…映画、観たいのか?…。あぁ、食事は俺とではつまらなかったか…。映画ならそんなに話さなくて済むからな。

【映画は時間に遅れたら眞壁さんに迷惑がかかります。それに町田に頼む事はしたくないですから】

【どこにも決めて行かなくてもいいですよ?】

は?それはどういう意味だ。行かないでは出掛けられないだろ。あ…まさか…。

【提案です。昼間なら散歩もしますよね。夜だって散歩してもいいと思います。その途中で休憩でお茶をしたりしたらいいんじゃないかと思います。便利なお店は沢山あります。治安の心配は無いですよね?一緒に居る柏木さんは屈強な刑事さんですから。突然の呼び出しがかかっても私は乗り物で帰ればいい訳ですから】

【つまらなくないですか?】

【ちっとも。誰に気を遣う事も無く、話もずっと出来ますから。いつからっていう時間も、あって無いようなものになります。映画のように間に合わせなければいけない時間に合わせ無くていいから。来られる時間からでいいですよね】

【会いたいです】

ドキッ。…え?

【何時まで出られますか?】

え?早速?いつの事?…今?今からの事?…凄いドキドキする。…私…これは、このドキドキはびっくりしたから、なの?…。

【すみません。焦りました。その提案で会いたいです。大体始めは何時までなら出られますか?】

あ、…もう。そういう事だったのね、はぁ…フフ。びっくりしたぁ。

【駄目です、無理って返しそうになりました。急だし今夜はもう遅いから。そんな風に取ってしまってドキドキしてしまいました。出掛けるのは、あまり遅くからだと、会える時間も少なくなりますね】

【少しでも会えるなら嬉しいです】

え?

【それは俺の努力の問題ですね。昼だって、会うなら長く会いたいと思ってしまうから、どうしても行けなくなってしまうんです】

…待って、これってもしかして。

【柏木さん、今どこに居ます?】

…。

【すみません、店の前に居ます】

あ、やっぱり。

【居てください。直ぐ下りて行きます】
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