貴方が手をつないでくれるなら


「散歩は、もう嫌ですか?いきなりこんな事をした俺とは無理になりましたか?」

…。

どうやら…駄目なんだな。…はぁ、印象は悪くなる一方だ。本当の変態に逆戻りか。……フ。

「もう遅いですね…居なくなったままだとお兄さんが心配します、部屋に帰ってください」

きっとどこかの窓から様子を窺っているはずだ。身体を離して上着を脱がそうと思った。

「…行きます。…散歩。私、行きます」

「え?」

「……行きたい」

いいのか?…どこかで迷いがあるんじゃ…無理してるんじゃないのか……そうだとしても…言ってるからいいんだな。

「本当ですか?では、手をつないでも大丈夫ですか?」

「はい。でも…凄くドキドキしてます。このままで大丈夫でしょうか」

「大丈夫だと思います。俺も負けないくらいドキドキしていますから。手、つないでも大丈夫?」

「はい」

「では」

ギュッと握られた。

「色々、いきなり…何もかも驚かせてすみません。
もう遅い時間です。散歩の行き先は決めてあります」

こうなったら…。

「え?行き先?行き当たりばったりみたいなのでは?」

「今日は違います」

「あ。違うって、どこ、に?」

「行き先は俺の部屋です。話がしたい。メールでは無く、感情の解る状態で話がしたい。駄目ですか?」

逸りすぎか。

「話は、私もしたいです…」

「……恐い?」

「え?いいえ、恐くは無いです」

「…そう。では行っていいですね?」

「はい」

「寒くないですか?」

「大丈夫です」

今はそんなの全然解らない。柏木さんと歩きながら柏木さんの部屋に行こうとしている。それを決めたのは自分…。凄いことになってる。
散歩なら、歩きながら話が出来ると思っていたけど…、とんでもない。…今は無理。
ドキドキしたまま、ずっと無口になってしまった。掌までドキドキしていないか心配になった。…私…手をつなぐどころか、……キス…した。しても平気だった。ううん、平気なんかじゃ無い。そういう平気って意味じゃなくて、ドキドキは今もとんでもなくしてるけど。…柏木さん…。

「……ん?眞壁さん、お茶しましょうか。そこのお店はハーブティーもあるみたいだから、いつも飲んでるルイボスティーもあるかも知れませんよ。別にそれに限った事ではないですが」

「え?あ、はい…」


お店の中の人は疎らで静かだった。夜だものね。

「あ、ごめんなさい、えっと、兄にちょっと連絡をしておきます」

携帯を取り出して見た。あっ、いつの間に…メール。

【慌てて下りて行ったようだが大丈夫なのか?刑事さんに何かあったのか?裏口の鍵はしたから、朝まで入れないぞ】

「えっ、そんなぁ…。どういう事…」

「どうかしましたか?」

「あっ、はい。…兄に閉め出されてしまいした。あ、言えばきっと開けてくれると思います大丈夫です、多分ですけど。でも…朝まで入れないぞって…どういうつもり…」

「そうですか。ではうちに泊まるといいですよ」

「え…」

それは…。あ、でも、部屋に向かっているという事が、始めからそういう事になってたのかも知れない。泊まる…。

「何にします?ケーキもありますよ?」

メニューを開けてこちら向きに見せてくれていた。お水が置かれた。店員さんが伝票を片手に立っていた。食事じゃないし、即、決まると待ってるんだ。

「あ…えっと、ピスタチオのケーキと、……ミルクティーにします」

ケーキとなると途端に現金だ。好きな物があると迷いも無い。

「はい。えー、俺は、エクレアとエスプレッソで。お願いします」

注文を復唱して店員さんは下がって行った。
…私、泊まるの?……泊まるって、泊まったりしたら、…いいのかな。…え?そういうモノ?
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