貴方が手をつないでくれるなら


兄以外の男の人と、一つの布団で寝るなんて初めての事…。子供じゃ無いから。余計何も無くても、平気なはずなんて無い。

「さっき煙草を吸ったばかりだ。申し訳ない、匂うでしょ?」

静かな、落とした声で聞かれた。

「…え?はい。でも、煙草の匂いは好きです。兄は吸うのを止めましたが、義父が煙草を好む人だったんです。
小さい頃、甘えて抱き着いたり、膝の上に座ったりした時、いつも煙草の匂いがしました。嫌ではありません。むしろ、こんな近くで…懐かしくて…。はぁ…すみません。…義父を…思い出してしまいました。私は義父がとても好きでした。とても大事に育てて貰ったと思ってます。…凄く、懐かしいです」

お義父さん、思い出してしまった…涙を見せて困らせてはいけない。背を向けるように動こうとした。

「…こっちを向いて?」

「…え」

声に反応して顔を向けたら涙を拭かれた。…、あ。

「何もしません、に、ならなくなるのかも知れませんが、誤解しないでください。構わないなら、こうして抱きしめても大丈夫ですか?」

本来なら、なにも言わず抱き寄せている。

横向きにされ胸の中に抱き込まれた。大きくて温かい…。規則正しく力強い心臓の音がした。

「ごめんなさい…有難うございます。義父のようです。ごめんなさい。柏木さん…義父よりずっと若いのに…」

こんな風に腕の中に居ると、何だか温かい気持ちになる。

「構いません。明かりはいつもどうされてますか?」

「小さい常夜灯を点けています。真っ暗にするのは恐くて…」

「解りました。では…目一杯明るさを落としましょう」

片腕は身体に回されたまま、探るようにリモコンに手を伸ばすと、ピピピピ…と音がして、凄く弱い明るさになった。

「このくらいにしかなりませんが、大丈夫ですか?」

「はい、有難うございます。すみません」

「謝らなくていいんです。…よっ」

腕を伸ばして頭の上のベッドの棚にリモコンを置いたようだ。

「はい。…フフ、ごめんなさい。言葉…いつも簡潔だなと思って」

「あー、すみません、素っ気なくて申し訳ない」

「謝らないでください」

「すみません」

…。

「もしかして、緊張してますか?」

「…してます」

「私もです、同じですね。でも不思議と安心します」

でも胸はずっとドキドキしていた。

「俺は不安です」

「え?」

「…この状態のまま居られるか、不安しか無い…」

「え?」

それって…。心臓が勝手に想像にドクドクと音を強めていた。

「…寝相が悪いんです。下敷きにしてしまわないか、落としてしまわないか、…不安です」

あ…はぁ…そこですか。…フフ。

「それなら大丈夫です。私も寝相は悪いんですよ?柏木さんの顔、叩いたりするかも知れませんから、落っことしておいた方が安全かも知れませんよ?先に寝てしまった方が勝ちかも知れませんね。暴れないように拘束しておいた方がいいですね、今みたいに」

「恐い事が起きるかもしれません。俺はシバかれたら咄嗟にシバき返すかも知れないです」

「え゙ー、本当ですか?それはちょっと恐いかも…思いっ切りされたら痛いです…」

「フ、嘘ですよ」

「あ…やっぱり、そうだと思いました。フフ。逆に私なんて簡単に取り押さえられちゃいますよね?」

「はい。寝ぼけていても、どんなに暴れられてもかっちり押さえ込みます。離さない自信があります」
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