貴方が手をつないでくれるなら


「…お兄ちゃん、…昨日の夜はごめんなさい。飛び出したまま帰って来なくて。
…あのね。柏木さんのところにずっと居たの。それで、連絡しようと思って携帯を見たら、お兄ちゃんからのメールがあって。見て…だからって訳じゃないけど、何だかそのままになってしまって。
ごめんなさい。…えっと、帰らないなら帰らないって、連絡しなきゃいけなかったのに。心配をかけました、ごめんなさい」

「…別に。いいんじゃないのか?日向は大人なんだし。ただ。
出掛けるなら出掛ける、帰らないなら帰らない、今後はそれだけは言ってくれ。心配する。今回は解ってたからいいよ」

「え?」

「…あのな?あんなに派手に階段を下りたら何事かと思う。どうした、って…追い掛けて声をかけようとして止めた。階段の下まで下りかけて戻った。
それから…上から様子を窺ってた。だから知ってる。誰と居たかも、誰と出掛けたかも」

う。それって…全部、何もかも見られてたのかな。

「一緒に居る家族への礼儀だと思って、出掛ける時は言ってくれ。それだけだ。
あ、それとも、それが煩わしくて一人暮らしがいいと思うなら、そうするといい」

「…お兄ちゃん。私、今度からはちゃんと言うから」

…あっ。…あるかどうか解らない事でもあるけど。

「そうか」

日向も今度がある、と、そういうつもりなんだな。

「うん。この家にはずっと居たいもの…。みんなで…義父さんと母さんと暮らした家だから」

…日向。

「ゔゔん。それに俺も入ってるのか?」

「勿論。当たり前じゃない、お兄ちゃん」

はぁ、やっぱり意識は家族か…。

ブー、ブー、…。

「…携帯、鳴ってるぞ…」

「あ、…うん」

冷蔵庫の横の棚で震えていた。…柏木さんだ。

【大丈夫?俺、謝らないといけない事がある。日向が洗面所に行ってる時、日向の携帯を許可無く弄った。
お兄さんのアドレスを見せて貰った。犯人が言うのもなんだけど、面倒臭くてもロックはしておく方がいいと思う】

え?思わず振り向いて、お兄ちゃんを見た。

「ん?柏木さんか?早速、日向の身を案じて連絡して来たのか?俺に叱られてやしないかって」

…。

「お兄ちゃん、柏木さんから何か連絡があったの?」

「柏木さんが言ってるのか?」

「私の携帯の…お兄ちゃんのアドレスを勝手に見たって。だから」

ただ連絡先を入手しただけかもしれないけど。でも、それなら教えてほしいと言うだろう。

「じゃあ、そうなんじゃないのか?」

「え?どういう意味、何を…」

じゃあ、やっぱり、何か連絡してきたんだ。

「一度、挨拶に来たいって、そう言ってた。それから、今回の事は連れ出した自分に責任があるから、叱らないでくれって。あと、…何だったかなぁ…」

…挨拶?

「向こうは本気だって事だ。だから、つき合う前から挨拶をしておきたいって事だと思う。…日向、…いや、また夜に話そう。ご馳走様、今朝も美味しかったよ。…偉かったな、ちゃんと朝ご飯の用意に間に合うように帰って来て」

お兄ちゃんは食べた食器を流しに運ぶと、店の鍵を取り下に下りて行った。

…挨拶?………挨拶?!
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