貴方が手をつないでくれるなら
「…おい。行ってくる、なんて、朝からなんだよ…」
…あ゙ー、もう…今日一番、本当に会いたくない野郎だ。知ってるさ、あっと思ったときにはもう送られてるのがメールだ。
「煩い…。どうせ、またお節介してくれちゃって、送ったんだろ?」
「送った。俺に誤送信したらそうするって言ってあるだろ?約束だからな。約束はきちんと守らないと」
「間違ったのは俺のミスだけど、…あ゙ー、もう、いいよ」
「ついでだけど、俺、行ってらっしゃいって、メール貰ったし」
ついではついでだ。流れで言わなきゃ仕方ないからに決まってるだろ。
「あー、俺、好きだって言ったから」
「は?誰に」
「誰にって、お前にじゃないなら解るだろ普通」
……。
「店に行ってさ、帰り際に、こう、ギューッと抱きしめて言った訳さ」
…抱きしめられたと言っていた。町田が好きだと言ったとも。
こいつは…町田の言う事は、本気なのか、わざと、からかってなのか、案外解んなかったのかも知れないな。あまりに何でも澱みなく熟すからだ。それがあだになったんだな。
…フン、…俺はな…。勿体ないから町田になんか教えてやらないけど。進展したんだよ。
俺ん家に泊まったんだ。どうだ、凄いだろ。何もしてないけどな。
「へぇ。そんな事が出来たくらいだから、店にお兄さんは居なかったんだな」
「ああ、丁度、昼で出てたみたいだった」
…丁度なんて…嘘だな。こいつの事だ、居ない時間を狙って行ったに違いない。そこら辺は用意周到だろ。
「じゃあ、まだ会った事も無いんだな」
「そうなるな」
「会わないのか?」
「何で?」
「好きだって言ったんだろ?いい返事が返って来たらどうするつもりだ?」
「そうなったらつき合うよ?」
「お前、本気なんだよな?」
「…どうした。本気だよ?…ははぁん、お前、今のところ分が悪いから気になるのか?先を越されたって。俺がお兄さんに会って、つき合いは断られたらいいとでも思ったか?」
「そんな事は考えもしなかった」
「ふ~ん」
ブー、ブー、…。
「お、ちょっと悪い」
「ああ」
…お兄さんだ。
【今朝は妹を送って頂き有難うございました。話は夜ならいつでも構いません。その変わり、外で会います。そちらの都合のつく時にご連絡ください。妹は叱ったりしていません。大人だから自己責任だと言ってあります。眞壁 爽】
「眞壁さんか?」
「あ、ああ」
「…ふ~ん」
お兄さんだけどな。嘘は言ってない。眞壁さんで間違いではない。