貴方が手をつないでくれるなら


「…自分は刑事です。ご存じのように最近死にかけました。だから迷いが無いとは言えません。いつまた怪我をするか、死んでしまうのか、解りませんから」

「そうですね」

あ…事実は事実だが、こうもはっきり肯定されると既に俺では駄目だと言われている気がする。

「それで?」

「妹さんとおつき合いする事を許して頂きたいのです」

「それから?」

「…それから?」

「つき合ってどうするつもりですか?」

「まだ、何も」

「何も?」

無責任だと思われたか。では、何のために挨拶に来たのかと。
嘘はつけない。

「はい。まだ妹さんに…、好きだとも言っていません。言って断られるかも知れませんから、まだ何も…先の事、答えられるモノがありません」

「妹を口説く前に、まず私を口説くという訳だ」

「え、いや、口説くというか、お願いです」

「では仮に。日向が貴方の気持ちに応えたら?」

「つき合ったその先は二人で決めます。職業を充分に理解して貰った上で、どうするのか、決めます」

「うん…貴方は先を考えていない訳ではない。……つき合いに終わりがあるかも知れない、それは、ある日突然に、という事も含めてですね?」

「はい、そうなります」

別れる理由は好き嫌いだけではない。死、というものが分かつ場合もある。

「…んー。では、日向がその気にならなかったら?」

「即、諦めたくはないです。そんな簡単なモノだったのかと、誤解されたくないです」

「纏わり付くつもりですか?」

「纏わり付く…解りませんが、納得がいくまではそうなるかも知れません。…行き過ぎたらストーカーになるかも知れません」

「ハハ…うん。どうやら貴方は駆け引きの出来ない人のようだ」

「俺は自他共認める馬鹿なんで」

「いや、不器用で正直だという事です。…しかし、嘘はいけないな」

「え?」

嘘?俺の話のどこが嘘だって言うんだ。

「確か貴方は、日向に何もしていないとメールで言った。それは嘘だ。それとも、アレは、貴方にとっては、日常茶飯事、誰にでもよくやる手なのかな。だから、何かした事には入らないと…」

アレ…?
日常茶飯事?…よくやる手?

「え?…は、い?何の事でしょうか。正直心当たりが…」

お兄さんが俺の前で顎を撫でている。…ん?髭?これが気にくわないのか?更に両手で鼻の下を撫でた。

……あ゙っ。その後した…アレか…。アレの事か。

「す、すみません。…日常茶飯事なんてとんでもない。ドキドキでした。俺にとっても何でも無い事なんかではありません。すみません、…何かありました…しました」

「…長かったよな〜」

「え?あ、いや、そう言われましても…」

俺だって妙なテンションだったんだ。長いとか、どうなんだ、解らん。アレは、あのくらいは自然の長さだろ?
…あれで長いのか?お兄さんは妹と思って見て無いから長いと思ったんだろ?

「悪いがずっと上から見てたんだ。刑事の割に、周囲に用心が足りないんじゃないのかな?」

周囲どころか、そんな時に上まで注意を払う余裕なんて無い…夢中だったんだ。見てるだろうとは思ったが、ずっと見てるとは思わなかった。これって虐められてるのか?
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