貴方が手をつないでくれるなら
俺が言って駄目だったら、勿論、町田も駄目だったら…、お兄さんがずっと側に居る、という事か…。
兄としてでは無い、お兄さんの強くて深い思いを受け入れる事が出来たら…、これ以上無い、強い思いで繋がった関係になるだろうに。
義理の兄妹である事…、結婚するなら籍はどうなるんだかよく解らんが、手続きとかややこしいんだろうが…。そこは大した問題でもないかもしれない。手続きはどうでも一緒に居られない訳じゃない。
そのままでも苗字は同じなんだよな。兄妹であるのは戸籍の中の事だけだよな。…子供が欲しくなったらどうなるんだろう。
お兄さんの気持ちが受け入れられなくて……今の生活を壊したくなければ、そのまま…何も告げないで、気持ちを隠し通せば…何も変わらず居る事は出来る。男としてはかなり苦しい事だろうけど。相当…辛いな。
そういうコト、何でもないと思えて、越える事が出来たら、ずっと穏やかに一生居られる訳だ。
…。
【お兄さんに会って話をして別れました。また連絡します】
…ふぅ。これでは貰っても嬉しくも無いか…。そもそも俺とのメールのやり取りを嬉しいと思っているのか、それすらも解らん…。
とにかく、思うようにしていいと言って貰った。…本当はそんな事、言いたくもないだろうに。
…よし。
【今から行きます】
残って冷たくなっていた珈琲を一気に飲み干した。一人残っていた店から飛び出した。
あ゙っ、まずい、会計!現職の刑事が無銭飲食なんて。慌てて戻った。
「すみません、りょ、料金が未払いでは…」
「クス。大丈夫です、頂いております」
あー、…伝票、お兄さんに持って行かれてたな、確か。はぁ。
「すみません、お騒がせしました」
「いいえ、また是非いらしてください」
いや、しばらくは無理だな。笑われた…こっぱずかしい。
再度、店を飛び出し、脱兎の如く走った。
大した距離では無い。全力で走り続けた。
走りながら電話を架けた。行きますとはメールしたが、何も返って来ていない。
RRRR…。
「あ、もしもし。もう着きます」
「…どこにだよ」
…ぁあ?低い男の声…あ、くそっ…また町田にか…。
「あ゙ー何でも無い。間違いだ、馬鹿。切るぞ」
「そっちが間違っておいて、失礼だろうが。はぁ、お前、本当、俺の事好きなんだな。間違ったとか言って誤魔化さずに素直にかけて来ていいんだぞ?」
「あ゙?違うわ…いいから寝てろ。じゃあな」
「寝て待ってたらいいの〜?」
…。
「あ゙ー、も゙う、そうだ、一生寝てろ」
プツ。
今更だな。眞壁日向と町田大祐。並んでるからいけないんだ。登録名を変えるか…。離した方がいいな。いや、確認の問題だな。…最終確認が甘いんだ。
電話を切った時にはもう店に着いていた。
…はぁ、…はぁ。裏に回った。
うおっ、…あっ。不意をつかれた。人が居た事に心底驚いた。
「…眞壁さん」
「柏木さん。今、兄も帰って来たばかりで…」
…。
歩み寄った。
「眞壁さん…友達からで構いませんが、ずっと友達では嫌です。俺と、つき合ってくれませんか?…俺は眞壁さんが好きです。明確な、気持ちの返事は今はまだ無理かと思います。だけど考えてほしい。俺は…、男と女でつき合いたいんです」
…あ。眞壁さんに両手を取られた。
「帰って来た兄に言われました」