貴方が手をつないでくれるなら


前に来た時と何も変わらない。
私を部屋に入れると柏木さんはお風呂に行った。そして、あっという間に出てきた。
今日もバスタオル一枚だった。

「ごめん。どうも流れで準備しないでそのまま出て来てしまう。ごめん」

「大丈夫です」

大丈夫は大丈夫だ。だけど、その格好のまま、隣に座られるとは思ってもみなかった。
真っ直ぐ前の壁を見たまま答えた。
ギシッという音がして少しだけ弾んだ。

「ごめん、ちょっと暑くて、いつもこうだから」

「はい、大丈夫です」

…。

冷蔵庫から取り出したお水を渡されていた。
柏木さんは飲んでいた。

「ふぅ、ちょっと前ごめん」

そう言ってシャツと下着を取り出した。

…何だか申し訳無いかも。着たく無い衣類を急いで身に付けさせてしまっているようで。

「あー、…下。…ごめん」

また前を通り、スウェットの下を取り出しその場で穿いた。あ…パンツ姿。…見てしまった。

「…部屋に帰ったと思ったら、妙にダラける癖がついてるから。きっちりしてなくてごめん」

「普段通りにしてください。…気を遣ったら休めませんから。ここは柏木さんの部屋なんですから」

「…うん。煙草吸うよ?」

「どうぞ。私、顔を洗って来ます」

「あ、うん」

一度すっぴんを見られたからいいとか、どうとかより、化粧は落としてしまいたい。言うほどきっちりメイクをしている訳でも無いけど。買って来たトラベルセットを使った。


あ、部屋は少し照明が落とされていた。

「このくらいにしてたら気にならないだろ?俺は元々気にしないけど」

「何だか、…有難うございます」

「寝るか?あ、別に起きてるけど、布団に入るか?」

「はい」

「ん?どっち。ん?あぁ、布団に入るんだな」

「はい」

「んじゃ、…よし。来い」

柏木さんは横になり、また布団を捲った状態で私を呼んだ。…解った気がする。自分の部屋と言う空間が、柏木さんをラフにさせているんだ。だから、こんなドキドキするような男らしい言い方をするんだ。

「ん?今夜は躊躇うのか?」

「違います。違わないけど、違います。それに躊躇いはありますからね?」

「ん、解ってる。…来い」

「…はい」

来い、って言われ方、ドキドキするんですけど。…させてるの?
上着を脱いだ。…チャリン。浅いポケットから鍵がこぼれ落ちた。…あ。これは…まずい。でも、もうどうする事も出来ない。

「無くさないようにしっかり入れとけよ?」

「え?」

「不自然に力の入った拳には何かを握ってると思ったんだ。その後の話も。…妙に慣れない事を言って粘るし。…頑張ろうとしてるんだなと思ったよ。拾って入れたら来いよ」

「…はい」

お兄ちゃんに言われたように、何とかしようと必死過ぎたから…。ベッドに横になったら布団を掛けられた。はぁ…帰るつもりが無い事、お見通しだったんだ。
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